当日は晴天に恵まれ、山を歩くのには絶好の日和であった。見学会の参加者は、大学の先生、行政の人、コンサルタントなど18名。愛知環状鉄道山口駅から大正池まで往復7kmの道のりを、「ここが道路建設予定地です」などと県の方から説明を聞きながら歩いた。
若葉が目に眩しく、川が静かに音をたてながら流れている。かなり急な坂を樹の幹につかまりながら土を踏みしめて下り、大正池に着いて砂防ダムの上に腰をおろして休んでいると、同じグループの誰かが趣味の山登りの話をしているのが聞こえてきた。ひとときの山歩きは参加者の気持ちを弾ませ、私も池の水面を眺めてぼーっとする時間を楽しみながら、多様な生命を内包するこの地域の価値を感じていた。
海上の森の価値を認識している人は多いようで、万博により自然環境が破壊されるという危惧により立てられた、「万博反対」といった立て看板があちこちに見られた。愛知県のパンフレットにも「自然環境に配慮した整備」と書いてあるように、この地域の動植物の命をできる限り守ってゆきたいという思いは、行政にも住民にも共通している(はずだ)。そうであれば、海上の森・愛知万博に関心を持つ者同士が、立場を超えて議論を重ねながら現実的な方向を探ってゆくことが必要であるが、現実には行政側が、広く意見を聞く耳を持っていないというということのようである。その結果、立ち木トラストとして木にかけられた名札を議員がはずしてしまったのを、万博反対住民がやり玉にあげて攻撃している間に、計画はどんどん進められているというように、事業と住民の乖離が起こっている。関心のある人達が誰でも意見交換できるようなオープンな場での議論を経て、価値ある場所の重要性を見失うことなく計画を進めてゆくことが必要であると改めて感じた。
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