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愛知建築士会主催 有松デザインゲーム「有松・町並みストーリー」を終えて

  愛知建築士会は、本年度「98年度なごや文化コンクール」に参加することとなり、「建築資産を町づくりに活かそう」をテーマに掲げ、この10月(*)に覚王山や白壁地区でのタウンウォッチング、大学公開講座などを企画しています。その際にデザインゲームの方法を取り入れるため、その練習をかねて、先だって「有松におけるタウンウォッチング」を実施した。この日のデザインゲームの企画と当日の進行を依頼されたため、私が今回得たノウハウと共に、感じたことを報告します。

                          (*)10月24日(土)のコーディネイターは千葉大の延藤先生

デザインゲーム参加者:35名(建築士会/有松町並み保存会/一般参加) 5チーム編成(1チーム6〜7名)

会場:有松・竹田邸 日時:1998年7月4日(土) 10:00〜18:00

●ワークショップの趣旨−町並み保存会との事前打ち合わせ

打ち合わせにて、会の方で用意した討議の視点は次の4点

1.有松地区をどのようにするか。

2.保存活用建物の選定とその理由。 

3.空き家になった建物をどう活用するか。

4.保全する組織、資金の手当。

加えて、地元有松保存委員会からの要望

A.新たに建て替える建築物への責任「歴史的まちなみの中に建築物を所有する地権者の責任と義務」

B.駅周辺の景観を二つに分断する行政の都市計画コンセプトの是非「駅をはさみ歴史ゾーンと商業ゾーン」

C.「有松の将来望ましい町の姿とは?」経済的に町並みを保つため妻籠の様な模造品のまちづくりにするのか?

D.では、古いまちなみの中にとけ込む新しい建築、新しいまちなみとは?色や形などの具体的な例や規定を。

●ワークショップ<タウンウォッチングとデザインゲーム>  

各チーム座長との趣旨打ち合わせ

 この根回しはどうしても必要だと再確認。基本的にワークショップは楽しく進むべきだが、座長が趣旨をしっかり把握していないとただのお遊びになってしまう。とはいえ座長にしたい程の人材を全員、事前に集合をかけるのは至難の技、結局スタートの前しかチャンスはない。当日の本番前は会場準備などでバタバタするが、何をおいてもコレだけはしっかり伝えなければならない。内容や趣旨のしっかりとした書面を渡し、座長に主催側から説明、ゲーム前に熟読していただく様お願いした。

タウンウォッチング「町の宝ものを探せ」

 有松町並み保存会の永井氏の案内。「絞りこみち」の仕掛け人で、ここはすっかりお任せにした。列の最終にも地元の人をつけてくれたおかげで、各自勝手な見学が可能。案内人が最前列にいるだけでは、列についていくだけに精一杯で、参加者全員が興味のある所を撮影、見学はできなかった。

昼食会とスライド

 地元の美味しいうどんやでの昼食。料理待ちの時間を使い、見学してきた建築をスライドで再度確認。これは建築士会スタッフの一人が提案し、時間のない中、地元の永井氏に協力を得てバタバタで決定したことだったが、参加者の町並みの再確認のために大変良い用意であり、作業の重要なポイントとなった。

イントロダクション 趣旨とゲーム説明

 挨拶、また、とくに難しい話にはあえてマイクを使用。室内での発声は聞こえはするが、聞く側を集中させ、細かい部分を理解させたい場面なら、可能なかぎりマイクを使うべきだと思う。  

デザインゲーム 創作劇「有松・町並みストーリー」プログラム

 1.「磨けば光る宝の路地はどこ?」 (劇場探し)

 2.「どんな町並みにするの?」(テーマづくり)

 3.「仮想の景観・町並みづくり」(舞台セットづくり)

 4.「その町並みには、どんな人がいるの?」(役作り)

 5.「発表と質疑応答」(本番だ!)

○町並みに建つ建築物の姿だけでなく、その場所に関わる人々の日々の暮らしぶり含めたまちづくりゲームが目的であったため、ストーリー作りができるようにと、お芝居に見立てて作成。

○作業内容は建築、整備などのハードから、店舗内容・人物のソフトへと順を追う形だが、ソフトが先にあっても当然良いわけで、あえて順を組立て追わせることに最後まで悩んだ。実際は、すでに劇場探し(まちづくり場所決定)の段階から、同時にハードとソフト両面を考え、最後何十分かで絵に仕上げるチームがほとんどであり、各ステップの細かい時間振りは必要なく、絵にする時間と発表時間を提示するだけで良かった。

○会場の竹田邸が大屋敷のおかげで、各チームの作業場を離すことができた。ほとんどのワークショップは全チームが同場所で作業をするが、どうしても周りのチームの作品の影響を受ける。子供ワークショップは特に顕著である。チーム作業ならば、離した方が各チームの個性が出やすいし、話し合いに熱も入る。

チーム作品発表 について

 参加者が主役であるワークショップは、当日蓋を開けるまでは解らない。ノウハウやマニュアルを用いた事前の用意で、参加者の気持ちを湧かすことは、ある程度可能であると思うが、なにより大切なのは、ライブに強い人材選びである。頭と体の動きが早いスタッフ、そして座長はさることながら、チームの焚き付け役として誰を人選するかにかかってくると思う。チームを仕組みすぎる様で抵抗があるかもしれないが、たかだか2〜3時間の作業の中では、参加者のとっかかりまでの時間が一番の問題であり、参加者が専門家でない以上、ムードメーカー的なお助け役は必要である。この日の参加者は建築家と地元町並み保存会のメンバー、絞り作家や地域住民、そして市の整備事務所員など、種様々なメンバーであったが、話しやすいムードの中で各々が持つまちなみへの想いを、勝手きままに意見にできてこそ、人の提案も聞けるし、話し合うことも楽しい。ワークショップに成功も失敗もないが、各チームの発表を聞く全員が、活き活きとした良い顔つきをしていたのは、おそらく参加者がスムーズに発言でき、良い時間を過ごしてくれたのだと思う。

竹田家にて懇親会 「もてなし」について

 竹田家現当主、竹田浩己氏は、まちづくりの先駆者的存在であった父君の意志を継ぎ、有松の町並みだけでなく、絞りの将来を常に深く考えてきた町のリーダーである。氏は、いつも客への「もてなし」に力を抜かない。今回のワークショップ後の親睦会も素晴らしかった。庭にろうそくをたて、星のスライドを映したテントに季節の手料理、宴の途中には線香花火を用意する。「ワールド絞りネットワーク」(*)の事務局を有松に置き、国籍かまわず、常に様々な客をオープンにもてなしている。同時に、聡明な奥方も「義父も常にそうでしたから」と軽く笑っての全面協力である。日本の伝統的な町並みと、豊かな名古屋人の心を持ち、世界へ向けて扉を大きく開いているスゴイ家が名古屋市内には残っているのである。私たちが誇りをもって残すべきなのは、博物館の様な有松の景観ではなく、あの「もてなし」を生み出す場ではないかと思う。有松には今までもたくさんの人が関わり、たくさんのモノ言いをしてきたが、ここにきて区画整理や空き家問題が有松の町と住民の心を本気で解体していこうとしている、たくさんの宝物を抱えたまま!      

(*)1993年有松で開催された国際絞り会議を機に竹田氏が提案した世界の絞り職人やデザイナー、研究者同士の情報ネットワーク

 (1998.7.4/山内)