横浜トリエンナーレは、今回で5回目となる現代アートの国際展で、30万人ほどが来場する大きなイベントである。今回は横浜美術館と赤レンガ倉庫のお隣にある新港ピアという展示場がメイン会場となっていた。
展覧会のディレクターを務めるのは、セルフポートレートで有名なアーティスト:森村泰昌氏で、氏が提唱した展覧会のテーマは「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」である。森村氏は、近年国際展が乱立する中、他の展覧会と差別化を図るため、単に楽しいだけのお祭り騒ぎや単純なポピュリズムなどに異議を唱えた。そこで、自由な表現の場を確保しつつもなんでもありでは困るので、それを隔てるラインを設けた。それを「芸術の良心」と表現している。そこには「もし芸術の神様がいるとすれば、その神様に捧げる芸術作品が、なんら恥じることのない供物であってほしい」という願いがあるそうだ。その「良心」とは、例えばもっと俗っぽく言えば「お金の匂いのしないもの」だそうだ。このコンセプトは面白い。「お金の匂いのしないもの」はいくら芸術的に重要でも、すぐに「忘却の海」に沈んでしまう危険がある。その危うさが今回の展覧会の魅力の一つだろう。
また、トリエンナーレというと、現代アートの最前線を一堂に集めるというイメージがあるが、今回は、ジョン・ケージやアンディ・ウォーホール、ルネ・マグリットなど歴史的作家の作品も多く、よい意味で驚いた。森村氏は必ずしも最先端の作品だけが現代を表現するのではなく、あえて過去の作品を今見ることの重要性を指摘している。
昨年開催された、あいちトリエンナーレと比べると、横浜は展示室がメインの展覧会で、まちと一体となった芸術祭という印象は薄く、少しさびしい気もしたが、コンセプトを理解して全体を見直してみると、隅々までディレクターの意思が行き届いた作家選定、会場構成が行われており、とてもよく考えられた展覧会であると感じた。「忘却」そして「お金の匂いのしないもの」。私にとってこの2つは今後現代アートを楽しむ上で、面白い視点となるだろう。 |
美術館入口前に置かれたヴィム・デルボアの「低床トレーラー」
ゴシック建築風の模様にレーザーカットされた鉄板を組み合わせて作られたトレーラーのオブジェ |
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