平成26年2月に、業務で複合公共施設を幾つか視察する機会があった。その中で、施設内の複数の機能が有機的に連携し特徴的な活動を行っている施設を2つ紹介する。
<豊中市千里文化センター「コラボ」>
旧千里文化センター(公民館・図書館・老人福祉センター)と、その近辺にあった市役所出張所、保健師駐在所を一体化し、平成20年2月にオープンした施設。1階はバスターミナルで、2階から上が文化センター、市出張所、保健センター、公民館、老人福祉センター、図書館と6つの機能からなる。施設の全体管理運営は、豊中市地域連携センター(市の市民協働部所管)が担う。
この施設の整備にあたって、市民が参画して市との協働の場となる「豊中市新千里図書館・公民館創造会議」を平成17年9月に設置された。この中で議論を重ねて、図書館・公民館のあり方にとどまらず、「広場機能をもつ多目的スペースをつくる」「屋上庭園をつくって開放する」などの提言がなされた。
これらの提言は、施設オープン後に設立された「市民運営会議」と「市民実行委員会」へと引き継がれた。「市民運営会議」は、市民委員(公募で地域団体の代表等が就任)、学識者、センター内の6つの機能の施設長(市)で構成され、全体の運営や企画内容の審査などを行う。
一方、市民実行委員会は、市民委員(市民活動の経験を問わず公募)で構成され、整備の段階で創造会議より提案された多目的スペース「コラボひろば」と「屋上庭園」の日常的な運営を担い、毎年市と市民実行委員会とがパートナーシップ協定を結んで運営する。コラボひろばでは、日常は喫茶コーナーでコーヒーが200円で飲め、センター内の各施設に訪れた人が気軽な立寄れる場となっている。ここでは、定期的に多文化カフェ、転勤族カフェ、千里文化大学校など様々な「交流カフェ」が開催されている。また、屋上庭園では、実行委員の他にも屋上サポーターを募り、日常的に庭園管理を行っている。
また、毎年10月には「コラボまつり」が行われている。センター内の千里公民館に登録した団体を中心に「コラボまつり実行委員会」が組織され、当日には公民館以外の施設(図書館、文化センター、保健センター、老人福祉センター)も参加して事業を展開する。
なお、視察した当日は「ディスカバー千里」というNPOの企画展示が行われていた。
<山口情報芸術センター(YCAM)>
情報(メディア)とアートをコンセプトとして、平成15年の開館当初よりメディアアートのオリジナル作品の制作、国内外のアーティストとの共同事業、教育普及のためのワークショップなど、オリジナルにこだわり「ここから世界に発信する」コンテンツづくりに取り組んでいる。
設計は建築家の磯崎新氏。運営は、指定管理者として公益財団法人山口市文化振興財団が全館の運営管理を担う。施設内には中央図書館(市直営)も有する。
主に小学生以下の子ども達への教育普及に力を入れ、「メディアワークショップの実践」が第6回キッズデザイン賞の最優秀賞「経済産業大臣賞」を受賞。「子どもの五感や感性を拓くための熟考されたプログラムと、その装置、設計が圧倒的に優れている」と評価を受ける。携帯電話のカメラ機能を使った「ケータイ・スパイ大作戦」や、建築家ユニットassistant(東京都渋谷区)と連携した「コロガルパビリオン」など、ワークショップを取り入れて子ども達が自らルールや施設を考える様々な事業に取り組む。
市民の参加という点では、「サポートスタッフ」と「市民コラボレーター」を毎年公募している。「サポートスタッフ」は、フロント受付や舞台設営などの支援を行う。一方、「市民コラボレーター」はMeet The Artist(MTA)と称し、招聘するアーティストアーティストと協働して1年かけて市民メディアを創作するという本格的なものである。
平成25年度は開館10周年にあたり、総合アーティスティックディレクターに坂本龍一氏を迎え、「アートと環境と未来・山口」と題した10周年記念祭が開催された。施設全体を使って、映像や音響も組み合わせた様々なアート作品の展示、ダンス等の上演、シンポジウム等の講演、教育普及ワークショップなどが実施されたり、能楽と現代アートを組み合わせたパフォーマンスの上演を市内の神社の能楽堂で行うなど施設外でも様々な事業が展開されたという。視察当日は既にこれらの事業自体は終わっていたが、一部の作品を見ることができた。
施設内の連携という点では、毎年11月に開催される「中央図書館まつり」で、ブックリサイクル(古本市)、展示体験、対面読書体験、中央図書館バックヤードツアーなどのボランティアグループの協力を得ている。また、スタンプラリー帳の作成などデザインが求められる物の作成や会場設営などでYCAMのスタッフが協力しているという。
公共施設の運営については、全国的に自治体の財政状況が厳しくなる中で、経営、サービス向上、集客力などが重視される傾向にある。このような視点も重要であるが、一方、公共セクターが関わるからこその運営(例えば市民や子どもの育成など)も重要ではないだろうか。その点で、今回取り上げた2事例は注目できる施設である。 |