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東京都台東区谷中のまちとまちづくり
(愛知登文会 保存・活用講座視察会にて)

  昨年12月19日配信(第299号)の本メルマガで、愛知登文会(愛知県登録文化財建造物所有者の会)が開催する保存・活用講座の一環で大阪登文会の活動と府内登録文化財の視察についてご紹介したが、同講座で東京都台東区の谷中のまちを訪れる機会があったのでご紹介したい。
 谷中はJR上野駅の北側(JR日暮里駅・鶯谷駅の西側)に位置している。周辺には東京芸術大学や上野動物園、谷中霊園がある。今回の視察では、谷中界隈とその周辺の生活文化の保全・活用・支援を行っているNPO法人たいとう歴史都市研究会の方々にまちを案内いただいた。
 研究会では、現在、明治40年に建設され国登録有形文化財建造物でもある「市田邸」、彫刻家・平櫛田中氏の住宅兼アトリエであった「旧平櫛田中邸アトリエ」、大正に建設された「カヤバ珈琲」、大正8年に建設された町屋「間間間(さんけんま)」の4軒の伝統的建物の維持管理、保全に向けた活用が行われている。大阪を視察した際にも感じたことだが、これら伝統的建築の保全には、“活用”が1つキーワードになっており、方法によって様々な可能性があると感じる。
 「市田邸」では1階の座敷部分を公開し芸術文化活動の拠点としているほか、1階の一部分と2階は芸文の学生らのシェア居住として活用されているし、「間間間」は普段は住宅として使用されているほか、1階の店舖部分は曜日ごとに尺八作りワークショップやカフェ・バーなどに活用されている。「カヤバ珈琲」は昭和13年から平成18年まで続いた地元に親しまれた喫茶店であったことから、閉店後にNPO法人たいとう歴史都市研究会が借り受けて、一部をNPOの事務所として使用しているが、新しい運営者により「カヤバ珈琲」を復活させている。「カヤバ珈琲」では、内装など一部は改修されているが、外観や喫茶店の家具・食器はそのまま残され、「ルシアン(コーヒーにココアを加えたもの)」や「たまごサンド」といった往時のメニューも再現されており、建物だけでなく地元の人々の生活の一部までもが大切に守り継がれていた。建物ごとに、芸文の学生や若者や地元住民など場を利用する人が異なり、活用が押しつけでなく自然体で行われている印象を受けた。無理なく谷中のまちに関わる様々な人に利用されることで、伝統的建物の保全に対する気運も広がっていくのではないかと期待できる。
 今回、日暮里駅から上野駅に向かって谷中のまちなかを散策したが、まちなかには 今回紹介した伝統的建物以外にも、歩いているだけで趣きのある路地や和洋折衷の建物が視界に飛び込んでくる。また、幸田露伴の代表作「五重塔」のモデルとなった天王寺(五重塔は消失)、国の重要文化財である旧東京音楽学校奏楽堂などの見所も多いので、半日でも時間が足りないくらいであった。まち歩きを目的に訪れるのであれば1日かけてゆっくり散策することをお勧めしたい。そして、もし歩き疲れたらカヤバ珈琲で名物メニューの「ルシアン」を賞味してはいかがでしょうか。
市田邸
「市田邸」 庭と1階の座敷部分
旧平櫛田中邸アトリエ
「旧平櫛田中邸アトリエ」 右手が居住空間、左手がアトリエ
カヤバ珈琲
「カヤバ珈琲」 H11に台東区まちかど賞を受賞
間間間
「間間間」 江戸町屋の流れを汲み軒を深く出す出桁造り
観音寺の築地塀
赤穂浪士ゆかりの寺「観音寺」の築地塀
旧東京音楽学校奏楽堂
国の重要文化財「旧東京音楽学校奏楽堂」
(2012.2.27/喜田祥子)