私の母校、多摩美術大学の図書館棟を見学しました。設計は世界的建築家の伊藤豊雄氏です。特徴はまず、その構造です。バウンドするボールの軌跡のようなアーチ型の壁の連続で建物のすべてが作られています。これは鉄板をコンクリートで挟み込むという特殊な構造で、わずか20cmの壁だけで大きな空間を支えることが可能になりました。その極限まで切り詰められた構造の美しさ見せるため、可能な限り設備を見えなくしています。現代の建築は、消防設備や照明、空調設備無しでは作ることができませんので、それらを意識させない建築というは、実はとても練り込まれた設計をしないと実現できません。この建物のすばらしさは構造体と家具という建築の究極の要素のみで独創的な空間を創造している点が上げられます。
もう一つの特徴は、1階の床が周辺の地形と同じ傾斜が付いた床になっていることです。この図書館のコンセプトに「ブラウジング」というキーワードがあります。「ブラウジング」とは「さまざまなリソースを所蔵する図書館を歩き回ることによって、予期せぬ資料に出くわすことも意味する。それはさまざまな情報にあふれた町を歩き回る経験に共通している。」とあり、1階を道路や広場の延長ととらえているため、あえて周辺の傾斜と段差なく連続させています。使いにくい場面もあるようですが、既成概念にとらわれない空間は学生たちに大きな可能性を示唆することでしょう。
伊藤豊雄氏は、岐阜大学跡地の図書館等複合施設の設計コンペで、安藤忠雄氏や妹島和世氏らをおさえ設計者に選ばれました。インターネットの普及とともに、従来の図書館としての存在意義は時代遅れとなりつつありますが、人は空間体験によって得られる刺激により、知識欲をかきたてられることもあります。そこに行くことで新たに何かをしたくなるような空間を期待し、完成を楽しみに待っています。 |
建物外観:ガラスと躯体が継ぎ目がないようにぴったりと繋がっている。 |
1F内部:コンクリートの構造体の美しさが際立つ内部。 |
2F内部:この施設のためにデザインされた家具も見どころ。 |