宍道湖畔は、実に気持ちのよい場所である。透明な水面と空が開放的に眼前に広がり、水と空の色は時間とともに柔らかく変化していく。島根県立美術館は、この美しい場所に平成11年にオープンした。
美術館全体が宍道湖を意識して計画されており、コンセプトのひとつとして、「水と調和する美術館」を掲げている。まず、収蔵品として、「水を主題とする絵画」の収集に力を入れており、葛飾北斎の「富嶽三十六景」や、クールベ、ゴーギャン、モネ他西洋画家の、水を主題とする絵画などをコレクションしている。次に建物であるが、地上2階建てで、全体にかかった屋根が対岸の山や、宍道湖の波と調和するゆるやかなカーブを描いており、周辺環境によく溶け込んだデザインとなっている。設計は、菊竹清訓建築設計事務所である。宍道湖畔に面して広いエントランスロビーが設けられており、湖の眺めを楽しむことができるとともに、コンサートなどのイベント会場としても使われている。私が訪れた時には、エントランスロビーでフルートの演奏が行われており、かなり多くの人が鑑賞していた。ロビーは無料開放なので、コンサートを目的に来ている人もいたのかもしれない。また、美術館と宍道湖の間には庭のような空間があり、ここにいくつかの屋外彫刻が置かれ、彫刻を眺めながら湖畔の風景を楽しんだり、くつろいだりできるようになっている。
県立美術館で、地域性を前面に出したコンセプトを掲げて運営しているところはそれほどないのではないかと思われる。島根県立美術館は、「宍道湖」という地元の資源に焦点を当て、「水」というテーマをはっきりと打ち出し、島根らしさを出そうとしているという点で、ひとつの県立美術館のあり方を示している。
|