「御所の細道」という言葉を聞いたことがおありだろうか。耳にされたことがある方は、京都に詳しい方か、自転車に興味がある方ではないだろうか。
京都御苑は京都市中心部に位置し、京都御所を囲んでいる国民公園で、東西約700m、南北約1,300m、面積約63haという広大な敷地が常時市民に開放されている。広い通路には砂利が敷かれ、松林をはじめとした樹木や花が多く、ベンチも多い。そのため、散歩やジョギング、読書など様々な方法で市民に利用されている。また、一般車両の乗り入れが規制されており、歩行者や自転車に乗った人(以下、自転車乗り)が安心して通り抜けできる道としても利用されている。実際に砂利を踏みしめながら歩いていると、豊かな緑や築地塀に目を奪われ、街の喧騒とは隔絶された非常に心地良い空間であると感じた。
歩行者ではなく自転車乗りの立場で想像して欲しい。砂利が敷き詰められ、舗装されていない場所を好んで利用するのかという疑問が生じて当然だと思うが、実際には自転車乗りを多く目にすることができる。幅十数p程度の砂利のない「けものみち」が存在しているからである。自転車が何度も通ることで自然にできた「けものみち」こそ、「御所の細道」と呼ばれるもので、ほぼすべての自転車乗りが「御所の細道」をきれいに1列になって通っているのである。
計画的に整備されたものではなく、一面の砂利に「御所の細道」が1筋の緩やかな曲線を描いている様は景観としても非常に美しい。また、「御所の細道」は基本的には1本道であるため、対向車が来ればどちらかが譲らなければならない。譲った自転車乗りは砂利の上を必死に漕がなければならない状況に陥るにもかかわらず、皆が自然に譲り合っており、その美しい姿を見て少し感動さえ覚えた。対向車と分離するためにもう一本「けものみち」ができるのが自然なような気がするが、譲り合えば無駄に道を増やす必要はないという美しい共通意見の表れなのか、複線化は進んでいない。歩行者の立場に戻ってみると、「御所の細道」を1列になって走っている自転車に対しては全く危険を感じない。こちらが京都御苑の空間に浸り「御所の細道」の存在を忘れて近づいたとしても、砂利よりも歩きやすい「御所の細道」を歩いている人がいても、譲り合いに慣れている自転車乗りは自然に避けてくれるのである。街の中で当然のように鳴らされるベルの音をここでは聞くことはない。歩行者と自転車乗りの共存という点でも非常に美しい。
以上の点から、勝手ながら「御所の細道」を世界で最も美しい自転車道と認定したい。京都を訪れる機会があれば、ぜひ「御所の細道」の美しさを堪能していただければと思う。
○参考:「京都御苑」
http://www.kyotogyoen.go.jp/
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「御所の細道」と自転車乗り
(2006年10月撮影)
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