郡上八幡を訪れる度にいつもびっくりするのは、見も知らぬ地元の人が非常に親切にしてくれることである。例えば道を歩いていると、「流し素麺食べていきなさい!」と声をかけてくれたりする。また不思議なのは、城下町の住宅の改築・新築に際し、公的な助成はほとんどないにもかかわらず、実に美しい町並みが綺麗に手入れされて残っていることである。郡上八幡というところは何というか、「普通の」人達がまちに積極的に関わっているという印象がある。今回、八幡町役場の方からそのあたりのお話を聞く機会に恵まれた。
住民がまちに関心を持つようになった最初のきっかけは、郡上八幡の水利用システムが大学の先生によって研究発表され、一躍世間の脚光を浴びたことである。その先生が「意識して守らないと、だんだんと失われてしまう」と警鐘を鳴らしたことで、住民が自発的に水浄化のステッカーをつくったり、その先生の講演会を開催したりと、「水のまち」を守るための積極的な運動をはじめた。それによって役場も「水」の大切さを認識し、同時に、伝統的な古い町並みも、水と同様に守っていかなければならないのではないかと考えた。そこで町並みが残る地域の人達に保存についての考えを聞いたところ、最初はいい反応がなかったそうだ。しかし、老朽化していた暗渠を改善し、きれいな水の流れを外から見えるようにしたところ、観光客がたくさん見に来るようになった。それによって地域の人も、町並みと水の大切さを感じるようになり、町並み保存会を結成するに至った。保存会の中には、現在いくつかの委員会がつくられている。「建物審査委員会」は、住民自らの手で建築物の基準を定め、審査を行う。また、「水路委員会」では、水路の維持管理をしている。「柳楽庵(ゆうらくあん)運営委員会」では、特産品などの土産物店を運営している。また、商店街で町並みに合う街灯やベンチを置くなどして、町並みを一層美しく見せる工夫をしている。
役場でも、住民の「まちづくり協議会」の立ち上げの支援、優れた建築物の表彰、美しい町並みづくりのための活動に対する助成などにより後押ししている。また、平成11年には第3セクター「(財)郡上八幡産業振興公社」を設立し、観光客が伝統技術を体験する『達人座』の開催など、住民と一緒になった観光振興に力を入れている。
ただし、郡上八幡のスタンスはあくまで「住民のための町並みづくり」であり、生活とともにある町を大切にしていきたいということであった。しかし一方で「観光客にほめられると、よい町並みだという自覚が持てる」というから、観光客も重要な役割を果たしているようだ。
しかし、住民がどうしてそんなに熱心なのかという理由については、やはりよくわからなかった。ただ、ここに来ると、何かにくるまれているような温かい気持ちになる。そういう気持ちを地元の人達もみんな感じているから、というのが理由と言えるのかもしれない。 |
まちのあちこちに水場がある
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新築された住宅
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掃除当番を示す札 |
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