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太山寺塔頭・龍象院の再生
−神戸芸術工科大学・齊木崇人研究室の取り組み−

 太山寺は神戸市須磨区伊川谷にある神戸市内で唯一の国宝建築物で、8世紀初頭に建造したと伝えられる歴史ある寺院である。江戸末期に描かれた絵図を見るとたいへん栄えた様子がうかがえ、最盛期には周囲に41もの塔頭(小寺院)を構え、一大法城の観を呈していたといわれる。しかし、その後太山寺塔頭は衰退し、現在ではわずか4つの院を残すのみとなり歴史的な景観の存続にはこの塔頭の保存・再生が重要となってきていた。特に今回再生された龍象院は茅葺屋根であり、風景の形成において重要なアクセントとなっていた。

 こうした状況の中、神戸芸術工科大学・齊木崇人研究室では齊木教授を中心に10年ほど前から太山寺周辺の整備を目的に調査研究を行っており、一昨年、ひとつの大きな成果として龍象院の再生が完了した。

 この建物の再生でユニークな試みは、「茅テックコミュニティ」と呼ばれる茅葺き民家の屋根材ストック方法の開発である。茅葺き民家の保存の問題点は、ひとつに屋根材料である茅の調達が困難であるという点があげられる。元来、茅葺き民家を建設する集落では、茅場と呼ばれる茅の生産地を共同で持っており、継続的なストックにより、集落の建物の補修がなされてきた。しかし、現在ではそうした場所を、特に都市近郊で維持するのは不可能である。そこで、齊木研究室では神戸エコアップ研究会とともに、ニュータウンの法面に繁茂する茅を刈り取り、ストックするシステム考案し、すでに10年近く、毎年2月に、ニュータウンに生活する市民とともに茅刈りを続けてきた。そこで蓄積された茅が今回の龍象院の屋根材料として使用されているそうである。

 齊木研究室では、龍象院再生の他に「安養院庭園復元・庫裏建造」「太山寺周辺サイン計画」「五芝園展望台整備」等のプロジェクトも行っており、それらもほぼ完成し太山寺整備はようやく落ち着いたといえる。

 神戸というと港街のイメージが強いが、実は市内には1200棟もの茅葺き民家が存在しており、すばらしい山村風景が多く残っている地域でもある。特に今回紹介した太山寺は歴史的な景観をよく残した、知られざる名所であり、一度訪ねてみることをお勧めする。


(2001.5.2/堀内 研自)