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徒然随筆「岐阜県における町並みと保存運動02(岐阜市伊奈波界隈)

 以前執筆した『岐阜県における近代建築02(石原美術と日下部邸)』の日下部邸保存運動は平成17年5月から始まりましたが、運動の甲斐なく平成19年10月に和館のみ解体されることになりました。この保存運動以前から、伊奈波神社を中心とする伊奈波地区の有志による「伊奈波界隈まちつくり会」が平成14年に組織され、岐阜市都市景観形成市民団体の認定(平成15年)を受けていました。日下部邸和館解体後には分譲マンションが計画されていましたので、保存運動の過程で伊奈波界隈まちつくり会が中心となってまちつくり協定を協議していきました。岐阜市の協力と支援もあって、まちつくり協定は平成17年7月に締結され、紳士協定でありながら当該分譲マンションにも適用することができました。
  まちつくり協定では、自然環境と歴史・文化を継承、魅力ある景観の形成、安全で安心して暮らせる住環境の創出の方針を示し、協定整備計画で建物の用途制限、建物高さ制限、形態と意匠制限、緑化及び屋外広告物制限といった項目に分けて規定しています。まちづくり協定を制定する一方で、伊奈波神社参道の桜まつり、地区清掃と樹木の維持管理など広報をして住民のまちつくりへの関心を高めてきました。また行政への期待として、役割分担、まちつくりの方向性、桜の管理方法など提言をしました。協定から協議等を経て、平成19年には伊奈波地区(米屋町、大和町)地区計画が都市計画決定され、緩やかな紳士協定から厳格な法的制限に移行することになりました。
  歴史的建造物の保存は、日本国のように私的権利が優先され公共の福祉が軽んじられる社会にあっては困難であるといえます。しかし歴史的遺産である建造物が、単体或いは群として文化財的価値を有することは明白であり、一方で都市景観としても観光資源としても今後重要になっていくものと考えられます。日本人のアイデンティティとして、旧い町並みの保存は重要になってきていると考えられます。
  町家の維持管理から町並み保存に繋げていく方法は、大変な困難を伴います。住み易い住環境の整備、利活用した時の維持管理手法の確立、貸し手と借り手のマッチングなど課題は山積しています。また日本人の景観に対する意識は比較的低く、欧米のような定量的規制を好まず、むしろ緩やかな定性的規制を望む国民性も課題としてあります。筆者は定量的規制を望むのですが、難しいようなら都市や地域をゾーニングして、厳格な規制と緩慢な規制の使い分けをしてもよいとも考えるようになりました。

旧日下部邸
解体された旧日下部邸

リニューアルされた喫茶店
リニューアルされた喫茶店
都市景観賞を受賞した住宅
都市景観賞を受賞した住宅
リニューアルされた店舗
リニューアルされた店舗

(2015.8.17/嘱託研究員・田中清之)