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徒然随筆「国土計画・都市計画における
日本の問題点(都市計画区域と土地利用計画)」

 現在の日本社会で最大の関心事と問題点のひとつに、「原子力発電」が揚げられます。原子力発電に関わる電力問題を別にして、我々都市計画や建築を専門とする技術者にとって大変驚愕するのは、原子力発電所の周囲数百メートルの範囲内に住宅(一戸建ての専用住宅や農家住宅など)が数多く建っていたことです。ひとつ間違うと大惨事になる可能性を秘めている点に於いて、沖縄県やその他の県に存在するアメリカ軍基地に於いてもほぼ同様のことがいえます。岐阜県内に於いても、ゴミ焼却場の立地方針が定まらない状況が続いていることも、ほぼ同様のことが原因と考えられます。
 もそもこれらの問題の根本は何かといえば、日本国には土地利用計画が無いことが最大の原因です。欧州のドイツにはFプラン(Flachennutzungsplan;土地利用計画)があり、フランスにはPOS(Plaud Occupation des Sols;土地利用計画)が法律として定められており、この法律と市民(国民)権の主張により調和した街並みと美しい田園風景が保持されています。詳しいことを述べると、ドイツやフランスでは国土全体の土地利用が決まっており、個人の権利より公共の福祉や景観が優先されます。国土全体の土地利用を計画し、建設可能な土地と建設不可能な土地を区分します。次に建設可能な土地については土地所有者が誰であろうとその用途が制限されます。大きくいうと、住居地域には住宅が、商業地域には商業施設が、工業地域には工場等が建てられることになります。また、都市計画上或いは国土計画上重要な建造物、すなわち原子力発電所、ゴミ処理場や汚水処理場などはこの土地利用計画に明示されます。無論新たに計画される場合は、公聴会や説明会など市民を対象にした集会は公明正大に必ず行われます。この土地利用計画の中で特筆すべきは、都市計画上或いは国土計画上重要な建造物の周囲を限定して建設不可能にしていることです。ドイツでは緩衝帯と呼ばれ、緑地やビオトープなどで構成されます。したがって、今回の東日本大震災における原子力発電所のように周囲数百メートルの区域に住宅や商店などはなく、このような惨事にはならなかった可能性はあります。
 一体に日本国は、戦後個人の財産権を余りにも重要視したせいか、全体の計画や景観といった公共の福祉(心地よさとか住み良さと言ってもよい。)を疎かにしてきた経緯があります。市街地を自動車で走っていると、工場の隣地に分譲マンションか賃貸マンション或いは一戸建ての住宅が数棟建てられ、低層住宅地の中に高層ビルのマンションが建てられ、住民は良く我慢していると思うことがしばしばあります。筆者も設計した高齢者福祉施設の隣地に、商業施設(焼肉屋)が建てられた経験があり、日本の法制度の中では反論できないことを痛感しました。また鉄道に乗ってみても、線路沿いに住宅等を見かけないことはなく、田園風景の中に住宅や工場が建っている景観は日常茶飯事のことになっています。一方ドイツやフランスなど欧州では、市街地があって建造物や教会が建っており、そこを過ぎると緑豊かな田園風景を見ることができ、不調和な景観を見ることは余りありません。
 日本人は戦後経済的貧困の中から数十年回復努力の末、今日の経済的余裕が生まれたといえます。今後は経済的価値で物事を判断するだけでなく、文化的側面からも物事を判断するような“ゆとり”ある生活を送りたいものです。逆説的に言うならば、開発に乗りおくれたがために旧いまちなみが残され、現在国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された地区(言いやすいので、筆者の故郷である岐阜県恵那市岩村町など)は、住民にとって誇りと安らぎのある町になっています。ドイツの都市計画に詳しい水島信氏は、著書の「(続)ドイツ流街づくり読本」の中で、“都市計画の根源的目的は快適な居住環境の生成である。”と述べておられます。我々日本人は、歴史的経緯をもう少し見直して欧州の制度を取り入れるようにできないでしょうか。

(2012.7.31/嘱託研究員・田中清之)