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公立図書館をみつめて

 公立図書館は、読みたい本を無料で借りられたり、調査研究などで調べものをしたりするなど市民にとって身近なサービスというのが一般的な認識だと思う。これまでの自分を振り返ってみて小学校の頃は図書館に月に何度か足を運んでいたが、中学生から高校生にかけては部活に明け暮れて図書館から遠のき、大学で研究論文を作成する時期になり、文献を調べたり昭和初期の新聞記事をマイクロフィルムで調べるために再び図書館に通うようになった。そして現在は、仕事で調べものをしたり専門書などを借りるために年数回ペースで利用する程度となっている。
  図書館については本を借り、文献を調べる所という程度の認識だったが、近年、図書館に関する調査検討に関わることがある中で、全国の幾つかの図書館を視察し、いろいろ工夫をしながら運営していることについて理解を深めてきている。これまで収集してきた情報を利用者目線で整理してみたい。

■図書館法
1950年制定、社会教育を推進するため、地方公共団体や公益法人等が設置する公共図書館について規定した法律。

■全国共通の課題−子どもの読書推進
図書館に関わる人なら当たり前の情報ではあるが、文部科学省が進める施策の一つ「青少年の健全育成」の中で、子どもの読書活動の推進が大きな課題としてある。多様な情報メディアの発達等により子どもの読書離れが深刻になる中、議員立法により2001年12月に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が公布・施行されており、この法律が対象としている18歳までの子ども向けの活動に力を入れる自治体は多くなっている。

■図書館運営を支えるボランティア
従来から子どもの読み聞かせ、視覚障がい者の情報支援(音声化、点字資料作成、対面朗読など)をボランティアが支える公立図書館は各地にある。近年は、本の整理や本の修理など図書館職員の作業を手伝うボランティアがいるところもある。

■自治体内における図書館の連携
〇中央図書館集約タイプ−岐阜、四日市、岡崎、一宮、春日井をはじめ全国多数
 中央図書館に専門書や地域資料をはじめ大半の蔵書を集約させて残りを分館にしているところ。このタイプは中核都市などを中心に全国に多数ある。
〇生活拠点分散タイプ−名古屋、さいたま、仙台、豊中など
 名古屋やさいたまの場合、中央図書館はあるものの市域にくまなく図書館があるように配置され、名古屋で21か所、さいたまで28か所ある。仙台、豊中は中央図書館という位置づけはされていないようで、仙台7か所、豊中9か所ある。
  これらの自治体の中には、鉄道駅周辺の整備に合わせて図書館も新設・再整備され、利用度が高い施設がある。27年度の年間個人貸出人数をみると、名古屋−徳重図書館(27.8万人、市内2位)、東図書館(21.8万人、市内4位)、さいたま−中央図書館(47.0万人、市内1位)、豊中−千里図書館(28.4万人、市内1位)など。これらの特徴は、徳重図書館(区役所支所、アピタ等併設)、東図書館(スポーツ施設併設、近隣にイオン、ナゴヤドーム)、千里図書館(市役所出張所、老人福祉、老人保健、公民館等併設)となっており、鉄道駅直近というだけでなく複合施設として整備されている事も注目できる。中央図書館に集約されているタイプの中でも、駅構内に整備されて利用度が高い岐阜市立図書館の分館(26年度15.1万人、ぎふメディアコスモスへの移転前の旧本館の3倍で市内1位だった)のようなケースもある。

■図書館不便地域をカバーするためのサービス
〇移動図書館
図書館へのアクセスが不便な地域を移動図書館車両で巡回するサービスで、結構古くから様々な自治体で行われているが、近年、実施している自治体が減少してきている。東海地方では名古屋、四日市などで実施されている。
〇公立学校図書室との連携
横浜市の調査季報88号(1986年2月)によれば、戦後、自治体内の地域の核として学校施設の開放の流れがある中、公立学校の図書室を開放するべく神戸市で1969年に実施したのにはじまり、練馬区1977年、札幌市1978年、横浜市1980年などから実施されるようになった。近年は、総合学習の実施、地域や家庭と学校との連携など新たな課題がある中で、公立図書館と連携し、土日などに学校図書館として開放するケースが増えてきている。

■図書館の電子化
〇閉架書庫の自動化
近年、図書館の建替え、リニューアルに合わせて閉架書庫を自動化書庫として整備する公立図書館の事例が出てきている。多くの図書館では既にネット検索により自宅のパソコンから、あるいは管内の検索用端末から容易に資料を検索できるようになってきており、閉架書庫であっても窓口で申請すれば結構早く書庫から取り出すことができる(視察したところでは約90秒〜2分以内)。施設側にとっても閉架書庫のスペースをコンパクトにできるとともに図書館職員の作業省力化にもつながる。東海地方では、桑名メディアライブ、岡崎市図書館交流プラザ、一宮市中央図書館、おおぶ文化交流の杜図書館などで導入されているが、いずれも開架スペースが充実している。
〇電子書籍貸出サービス
スマートフォンやタブレットなどの普及により情報端末がより身近に、便利に使える中、図書館と縁遠かった人を近づけるなどの目的で電子書籍の貸出サービスの普及が図られているが、国内では貸出タイトルの少なさや出版会社からの供給が進まないことなどの問題があり、電子図書が読める公立図書館は全国で33図書館と少ない (2015年5月現在)。

■複合施設の集積メリットを生かした図書館
 図書館の利用者目線で複合したことによって気軽に利用しやすいと思われる施設を2つ。1つ目は武蔵野プレイス(東京都武蔵野市)。図書館を中心に生涯学習支援、青少年活動支援、市民活動支援の4つの機能を併せ持った施設で、地上4階、地下2階建て。地下2階が青少年の居場所や音楽スタジオ等の活動場となるティーンズスタジオ、地下1〜地上2階が図書館でレストラン併設、地上3〜4階は生涯学習支援、市民活動支援のスペースとなっていて、図書館単館では需要に対応し切れない学習スペースを館全体でカバーし提供している。
2つ目は塩尻市市民交流センター「えんぱーく」(長野県塩尻市)。ここは再開発ビルで、図書館、子育て支援センター、市民交流センター(会議室、多目的ホール、音楽練習室等)、市の観光セクションなどが入り、一部は民間テナントも同居する。図書館の児童コーナーと子育て支援センターが併設していたり、図書館の窓口を出れば交流スペースで学習することもでき、1uから貸し出す市民サロン(共用スペースを活用)のようなスペースもある。建物のハード面でも、通常の太い柱ではなく構造壁のような構成になって施設内の壁が少なく、全体にオープンな空間となっている。

  以上、とりとめなく公立図書館の特徴について整理してみた。この他にも例えば地域資料(豊田市図書館の自動車関連資料、多治見市図書館の陶磁器関連資料など地域ならではの資料の収集度)、全体の運営方法(直営、業務委託、指定管理など)、大学図書館との連携、市民参加の仕組み、ユニバーサルデザイン、公共交通との連携など整理できそうな項目は幾つもある。今後、さらに視察する事例を増やすことができれば、新たな視点で公立図書館を紹介しようと思う。

徳重図書館
名古屋市の徳重図書館(ユメリア徳重内)
地下鉄徳重駅に直結

Iビル
尾張一宮駅前ビル「i-ビル」(5〜8Fが一宮市立中央図書館)
さいたま
再開発ビル コムナーレ(8階がさいたま市中央図書館、7Fまでは商業施設パルコ

移動図書館の例(四日市市立図書館)

桑名メディアライブ
自動書庫
桑名メディアライブ1階で図書館の自動書庫を見ることができる(図書館は3〜4階)

武蔵野プレイス
武蔵野プレイス
駅前にあり生涯学習拠点として各年代の利用度が高い。都市公園に隣接している。

 

えんぱーく
塩尻市市民交流センター「えんぱーく」


えんぱーく内の太い柱がなく開放的な図書館フロアー

(2017.3.31 /浅野 健)