先日、愛知住まい・まちづくりコンサルタント協議会の2012年4月交流会で、三河湾に浮かぶ佐久島の視察に出かけた。佐久島までは、名古屋駅で集合して観光バスで西尾市一色港に移動し、一色港からは1日6往復、片道約20分で佐久島と結ぶ船での移動だ。
午前中は、島の西半分を視察。最初に立寄った弁天サロンは佐久島西港にあり、民家を修復して平成10年にオープンした文化交流施設である。ここで、佐久島を紹介するビデオ映像と用意していただいた資料を使って市職員の方の説明を受けた。その概略を説明すると、バルブ期を経た1991年に三河湾リゾート整備構想重点地区に指定された後、この構想に基づく開発が検討されたが進展しなかった。1995年の国勢調査では島民人口が400人を割り、ちょうどこのころ、旧国土庁が各界で活躍する女性だけの委員会「よい風が吹く島が好き女性員会」が設置されたことが機会となり、これまでにない発想による島おこしがスタートした。1996年には「島を美しくつくる会」が発足、2001年からは島民とアートのコラボレーションによる島おこしプロジェクト「三河・佐久島アート21プラン」がスタート。また、コールタールで塗られた黒壁の家並みが、世界に名だたるミコノス島の「エーゲ海に浮かぶ白い宝石」にも並ぶ存在として、「三河湾の黒真珠(提唱者は現名古屋市立大名誉教授の瀬口哲夫氏)とよばれるようになった。10年以上続く島民とアートのコラボの取り組みにより「アートの島・佐久島」の認知度は上がり、今では年に何度もテレビ・ラジオ・新聞・雑誌等の取材申し込みがあり、市が窓口となって佐久島にとって有益な取材かどうかを選別しているという。それでも2011年度は年間70件以上と、毎週1〜2回のペースで受けていることになる。
次に、3月にオープンしたばかりの「佐久島クラインガルテン」へ。離島のクラインガルテンは全国初とのことで、ラウベ(宿泊棟)は全部で10棟あり、利用期間は、1年間(5年を超えない範囲で延長可能)、1区画48万円/年(水光熱費別)、佐久島に住所を有せず、年間70日以上農園を利用、島民との交流、島内の各事業への積極的な参加などの条件付きとなっている。2012年1月に募集をし、10区画ともうまっている。利用者は定年後の人がほとんどで、名古屋市など近郊の人が多いものの、遠くは奈良や長野から来ているという。
午後は、島東港近くの民宿「さざなみ」へ移動して昼食の後、ここのオーナーで島をつくる会のコアメンバーでもある鈴木喜代司氏にお話しを聞くことができた。「この先10年後も大きくまちを変えたくない」「アーティストと島民の協働を続けていきたい」「島民が島をきれいにすれば観光客もゴミを捨てなくなる」「ライバルは(東海地方のメジャーなスポットの)ナガシマや鈴鹿だ」「漁業で採取するのは島民に必要な分だけ」などの言葉の端々から、これまで思い入れを持って取り組まれてきたことがうかがえた。
佐久島の特徴を一つ選んであげるならば、「現代アートと島の伝統の融合」ということではないだろうか。このことは、アーティストの松岡徹氏や学生等のボランティアの協力で50年ぶりに伝統行事の祭り舟が復活(2007年)したり、ふるかはひでたか氏、松岡徹氏と2人のアーティストや県内8つの大学研究室の制作により島内に点在する「佐久島弘法」(霊場)のリノベーション(2010〜2012年)などの事業に表れていると思う。アート作品と弘法巡りの他にも、町並み散策、自然のふれあい、そしてなんといっても新鮮な海の味覚も堪能できる。島の伝統を打ち消さず尊重しながら新たな価値を生み出すという佐久島での取り組みは、これまで各地で見てきた「アートとまちづくり」では感じたことがない素晴らしさを感じた。また何度も訪れたい島である。
|