現在の位置:TOP>まちづくりを学ぼう>図書紹介>白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか WWW を検索 スペーシアサイト を検索

 

白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか/著者:簑原敬、饗庭伸、姥浦道生、中島直人、野澤千絵、日埜直彦、藤村龍至、村上暁信著

学芸出版社/2014年6月1日

  「これからの日本に都市計画は必要ですか?」と問いかけてくる。普段からまちづくりに携わる人間として、私はこの挑戦的なタイトルを目にした時に大きな関心を持った。
 本著は日本の都市計画家である蓑原敬氏を中心として、饗庭伸氏をはじめ7名の若手プランナーを交え日本の都市計画のあり方についてディスカッションするというものである。
 構成は大きく二部構成となっている。前半は蓑原氏が講師となり、海外の都市計画の歴史を紹介するとともに、比較して日本の都市計画の取組みへの反省点を踏まえ、今後取り組むべく課題を整理する「講義編」。設計主義に偏ったり、住宅問題や安全問題など社会全体の問題を横断的に引き受けてこなかったり、などと多くの日本の都市計画の問題点が洗い出される。また、本書のディスカッションが数日に分けて実施される途中で、東日本大震災が起こったことで、日本を取り巻くエネルギー問題や自然との共生などに呼応した日本の居住環境のあり方が今まで先延ばしにされ議論されてこなかった、ということにまで話はおよぶことになる。後半では、前半の講義で表出してきた内容を踏まえ、若手メンバーがそれぞれ問題提起しディスカッションが行われる「演習編」となる。
 本書の目的は解答を結論付けることではない。若手メンバーが提起した問題はいずれも明確な正解が導き出されるわけではない。しかし、今まで積み重なってきた都市計画の歴史を丁寧に紐解くことで、日本の都市計画が直面する課題を論理的に導き出している話には説得力があるし、饗庭氏をはじめ、普段から街づくりに関わり第一線で活躍している若手メンバーが「今気になっている問題」として提示する「都市計画にマスタープランは必要ですか?」や「コンパクトシティは暮らしやすい街になりますか?」などの問いかけは、既存のシステムを批判する内容も含まれており刺激的で、同時に考えさせられる。
 また「講義編」の中で、日本と海外のそれぞれの都市計画に関する著書が数多く登場してくるが、それぞれがどんな時代背景で登場してきたのかなどの特徴が、蓑原氏によって簡潔に分かりやすく解説されており、体系的に理解する上で非常に参考になるだろう。本書はグローバルな視点で都市計画の歴史を振り返るための参考書のような役割も果たすし、若手プランナーの斬新なアイデアに触れることもできる1冊となっている。

(2016.3.29/大河原 章介)