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 バルト沿岸都市視察調査

  本年6月下旬に、バルト沿岸都市タリン(エストニア)、サンクトペテルブルク(ロシア)、ヘルシンキ(フィンランド)の3つの都市を視察してきた。北欧といえば、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークの4ヶ国が一般的であり、4ヶ国あわせても2,500万人の北欧から、イケアやレゴ、H&M、スーパーセル(モバイルゲーム制作)、以前はノキアなどの世界企業が育っており、1年前の週刊ダイヤモンドで「北欧に学べ」という特集が組まれていた。それらの国々とフィンランド湾を挟んだ位置にバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)がある。わずか700万人弱(愛知県人口よりも少ない)のバルト三国は、東のロシア、西のドイツという大国に挟まれ、侵略に翻弄されてきた国々である。
*以下の文章はすでにフェイスブックで掲載しているが、つながっていない方々のために、若干アレンジして再掲することとしました。予定では全4回シリーズで情報提供いたします。
T−エストニア・タリン
■エストニア
 エストニア(面積4.5万ku・人口131万人)は、九州を二回り大きくした国土規模であり、小国である。13世紀以降、この国は様々な国に占領され、今日の国家を勝ち取ったのは旧ソ連から独立した1991年以降である。それまでは、デンマーク、リヴォニア騎士団(チュートン騎士団)、スウェーデン、ロシア帝国、ドイツ、旧ソ連の支配下に置かれていた。DVDで「1944」という映画がある。これは独ソ・エストニア戦線をテーマにし、第二次大戦で目まぐるしく変わる占領下で、ドイツ軍に徴兵された兵とソ連軍に徴兵された兵が、同じエストニア人にもかかわらず戦闘せざるを得ないに悲惨さを描いたものである。一つの民族として小国をなして、大国に囲まれながら独立して生き延びていくことは、至難である。あのポーランドも3度国家が消滅している。
 現在のエストニアはIT産業が強い。eストニアとも呼ばれ、スカイプもここで誕生した。日本でマイナンバーが導入されているが、その一つのモデルになったのがこのエストニアである。国民が国内外どこにいようとも、また、これまでのように領土が占領されようとも、国民の権利を行使できるようにとの意図がそこにある。NATOのサイバー防衛協力センターが首都タリンに置かれている。
■首都タリン
 さて首都タリン(面積159ku・人口41万人)であるが、ここは名古屋市の半分の面積で人口は1/6強である。13世紀につくられた旧市街は城壁(延長2.5km)に囲まれ、古い町並みが残されている。ウィーンのように城壁が取り壊されておらず、それが観光名所の一つになっている。タリン歴史地区は1997年にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。観光客は年間500万人が来訪しているようだ。
 タリンの西部には山の手であるトームペア地区があり、そこにある展望台から旧市街地(下町)の全貌をみることができる。大戦中はトームペア城の「のっぽのヘルマン」塔に掲揚される国旗がドイツなのか、旧ソ連なのかを、国民が固唾を飲んで見守っていたようだ。下町のエリアにはラエコヤ広場があり旧市役所もある。ここは市民や観光客のたまり場であり、イベントが開催され、オープンカフェが設置されている。旧市街のどの道もおおむねこのラエコヤ広場にたどり着く。旧市街の中は教会以外に高い建物がない。3〜4階建てが連続する。
 旧市街では自動車通行は原則禁止であり、いたるところにカフェテラスが設置されている。建物の中庭にもカフェが設置されていて、路上と違って落ち着いた雰囲気を醸し出す。建物が立ち上る街路の先にシンボルとなる教会の尖塔が見える。城壁の前ではマーケットが開催され、城壁の最上階では回遊でき、眺望できる観光コースが設定されている。
 あいにく午前中は雨天で、傘を差しながらのまち歩きは気分が重かったが、午後からは天候がよくなり、それなりの風景をカメラに収めることができた。残念ながら、定物観測しているマクドナルドも面白いトイレも、ユニークなマネキンもないのが残念であったが。

旧市街
旧市街の遠方を見ると高層ビルが立ち並ぶ。歴史地区の保全と新市街地の開発のバランスが求められ、これぐらい距離が離れていると、旧市街からは新市街地の高層ビルは見えない。

アレクサンドル・ネフスキー聖堂
トームペア城前のアレクサンドル・ネフスキー聖堂で、帝政ロシア時代に建てられたロシア正教教会。
のっぽのヘルマン塔に掲揚されるエストニア国旗
トームペア城と「のっぽのヘルマン」塔に掲揚される国旗。現在はエストニア国旗であるが、大戦中はドイツの国旗、ソ連の国旗と年によってかわった。
城壁とマーケット
旧市街をとりまく城壁とそこで衣料品等が売られるマーケットが開かれている。城壁の最上部は回遊できる展望回廊が設置されている。
カタリーナの通路
ドミニコ修道院の南を接して通る通路で、カタリーナの通路と呼ばれ、独特の雰囲気を漂わせている。
中庭のカフェ
中庭のカフェ。路上と異なり、周りが建物で囲まれているため、領域性が明確で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。
ラエコヤ広場のマーケット
ラエコヤ広場のマーケット。多くの観光客や市民でにぎわう。
ヴェネ通りのカフェテラス
ヴェネ通りのカフェテラス。旧歩道部分でなく、旧路側帯でカフェを設置している。駐車されているが、自動車通行は全く気にならなかった。
聖霊教会
聖霊教会。下町の人々の教会。壁面(塔ではない)にある時計は、タリンで最初の公共時計である。
旧市庁舎の尖塔
ラエコヤ広場に通じる街路から見える旧市庁舎の尖塔。狭い街路から広場に出て、一気に視界が広がる解放感は何ともいえない。
(2016.7.20/井澤知旦)