先日、愛知登文会(愛知県国登録有形文化財所有者の会)の県外視察で、静岡県の蒲原宿を訪問した。国登録有形文化財の旧五十嵐邸で活動する「NPO法人旧五十嵐邸を考える会」を訪ねるとともに、蒲原宿のまちを歩き、いくつか歴史ある建物を見学した。
蒲原宿は、東海道の江戸から数えて15番目の宿場まちで、静岡市清水区(旧蒲原町)にある。歌川広重の東海道五十三次に描かれた「蒲原夜之雪」が有名だ。「NPO法人旧五十嵐邸を考える会」が活動する旧五十嵐邸は、旧東海道沿いにある江戸時代の町家を大正3年頃に洋風に増改築して歯科医院として使用された擬洋風建築である。外観はガラス窓が多く開放的なつくりで、内部は通り土間をもつ純粋な町家のつくりである。座敷には富士と三保の松原、近江八景が描かれた欄間や花鳥風月が描かれた襖があり、床の間には銘木であるクロガキやシタン、タガヤサンが使用されている。2階診療室は和洋折衷づくりで、中庭には井戸水を2階の診療室まで通したポンプ小屋も残っている。
空き家となっていたところ平成10年に所有者から当時の旧蒲原町が譲り受け、翌年に「旧五十嵐邸を考える会」が発足され、以後、行政と住民による建物の保全活用が進められてきた。施設の管理運営のほか、建物ガイド、くらし体験や障子貼り体験などの体験事業、建物内でのコンサートなどが会によって実施されている。
蒲原宿には旧蒲原町時代に登録された国登録有形文化財が旧五十嵐邸を含めて6軒ある。また、平成8年に設立された蒲原の町並みの個性や魅力を継承する市民団体「蒲原宿まちなみの会」があり、江戸・明治・大正時代に建てられた町家や町並みの保全に寄与している。「NPO法人旧五十嵐邸を考える会」も「蒲原宿まちなみの会」もメンバーの大多数が地元の主婦で構成されているとのこと。この日ご案内いただいたのも女性4名だった。まちをご案内頂いた際も、地元の方とすれ違うと声を掛け合っていて、とても素敵なコミュニィが感じられた。会のメンバーのおひとりからは「蒲原のまちは団結力がよく、呼びかければすぐに集まるの。知らない人がいれば気さくに声をかけるし、距離がとても近いのよ。」というお話も。主婦のパワーとネットワーク、そしてまちのコミュニティが蒲原宿のまちなみ保全に繋がっているのだと感じた。 |