特集  都心ナゴヤに負けない地域の力

美濃焼産地
〜魅力を束ねて回遊創造!〜

竹内 郁

市之倉さかづき美術館
市之倉さかづき美術館
東濃3市1町(多治見市・土岐市・瑞浪市・笠原町)にまたがる地場産業「美濃焼」は、美濃焼とひとくくりにされているが、「笠原・滝呂・市之倉・高田・土岐津・泉・肥田・土岐津西部・下石・妻木・駄知・瑞浪・恵那・多治見」と、なんと14産地に窯が存在し、地域によって生産する陶磁器の種類が異なる。
 これらの産地は、陶磁器の生産および産地卸のまちとして発展してきたが、バブル景気後の長引く不況や、中国などの安価な陶磁器の生産地の台頭、食空間におけるライフスタイルの変化などにより、少品種大量生産を主力としてきた美濃焼業界は大変な苦境に直面している。
 従来この地域ではあまり積極的でなかった産業観光への取り組みが盛んに行われている。名古屋市から1時間程度という好立地にありながら、美濃焼産地は卸売りが中心であって、生産風景や小売店の集積も少なく、「陶磁器のまち」らしさはみられず、まちににぎわいを生み出すための機能は果たして来なかった。「ものづくり文化」への注目や観光産業への期待から、美濃焼産地でも様々な施設整備やイベントが開催された。2002年にセラミックパークMINOがオープンしたことにより、これを核として、たじみ創造館や岐阜県陶磁資料館、どんぶり会館、市之倉さかづき美術館をはじめとする陶磁器関連施設との連携もはかられつつある。また、既存の歴史的な町並みや窯元などの魅力を伝える本町や市之倉オリベストリートの展開、陶磁器においては世界的な知名度を得た国際陶磁器フェスティバル美濃の開催(次回の第7回展は2005年)などにより、その誇るべく歴史を下地として新世紀にあった産地へと大きく変化している。
 そしてつくり手・売り手による地域の連携も始まっている。消費者との交流や産地からの情報発信などをあわせた地域おこしとして、各産地単位での陶器まつりがここ数年開催されるようになり、好評を博している。さらには笠原、市之倉、下石、駄知の4地区の工業組合が「美濃焼窯場めぐり実行委員会」を立ち上げ、4つの祭を同日開催し産地間および主要駅を結ぶネットワークバスを走らせるようになった。産地間を周遊できるようになったことで、祭りのスケールが大きくなり集客効果を高めている。
 4産地が、互いの祭を意識し、競う中で、つくり手・売り手も来訪客に窯場にギャラリーを開設したり、お茶やコーヒーをサービスしたり、また後日DMを送るなど、「もてなしの心」とセンスを育てている。
「陶器のコイン」2003
「陶器のコイン」2003
特筆すべきは人々の回遊を生むツール「陶器のコイン」である。1999年から「駄知のどんぶりまつり」会場で「陶くん」として売り出された陶器のコインは祭の会期限定で使用できる地域通貨のようなもの。どうせならコイン自体がお土産になるものを作ろうと産地内の人間国宝の故塚本快示氏の快山窯にお願いして作品ともいうべきコインを作りあげた。コイン自体は最初から好評だったが流通させようと思うと使ったら無くなってしまう。それでは困るということで裏にシールを貼り支払いにはそのシールを受け渡すようにした。コインとシールを千円で購入し、千円分の買い物ができるという仕組みである。最初はこのシステムが理解されずなかなか売れなかったのだが、理解された途端にどっと売り切れるようになった。また協賛店のリストを添えて、コインを見せれば1割引きになるという地域への展開も自然な形ではじまり、まさに地域回遊のツールとなった。駄知で2年続けた後、さらに発展させて、2001年から「陶器のコイン」として4産地共通で流通するようになっている。毎年、地元の名のある窯元に依頼してデザインを変えて作るなど、コレクションしてもらえるような工夫もしている。
 大きな施設を建てるよりも個人個人が納得して共通理念のもと、お客に本当に喜ばれるサービスを提供するほうが難しい。それを「陶器のコイン」と言う形でやり遂げた美濃焼産地は小さいけれどきらりと光る魅力を束ねて、都心に負けない輝きを放つようになりつつある。

目次に戻る


「RUB-A-DUB」へのご意見ご感想