スペーシアレポート

津島の町屋の暮らし
〜訪問ヒアリング調査より〜

伊藤 彩子

 津島市の旧市街地にある本町筋には、江戸時代の町屋をはじめとした昔ながらの風景が残されているが、取り壊された町屋の跡地が駐車場になるなど、町並みは年々失われてきている。この本町筋の町屋の現状を探るため、数人のメンバーで10軒の色々なタイプの町屋を訪問して、住まい方などについてヒアリング調査を行った。建物の建築時期は、明治時代、江戸時代が中心である。
 ヒアリングの中で、町屋で快適に住まうために、住人が様々な工夫をしている様子を聞くことができた。
 ヒアリングに伺ったほとんどのお宅では、住みやすくするために何らかの改修を行っていた。最も印象的だったのは、Yさん宅である。南北に長い3軒長屋の真ん中であり、もともと借家だったのを購入してから、何回か改修を重ねてきた。家の中が全体的に華やかな雰囲気なのは、表具屋をしていたご主人が生きていた頃、建具や襖を全面的に取り替えて模様替えしたからである。また、10年程前に息子さん1家が同居することになったのを機にトイレを水洗化し、同時に土間に床を張って台所・風呂のリフォームをした。1間幅の土間に床が張られたことで、快適なキッチンとダイニングが生まれ、生活は格段に便利になった。入口部分だけは土間にタイルを貼り、自転車などを置けるスペースになっている。Yさんが、ご主人の思い出がつまった小さな家を、きれいに掃除しながら大切に使っているのが印象的であった。
 また、敷地の広い住宅でのみ可能なこととして、離れをうまく使って多世代が住んでいるところが何軒かあった。中でも印象的なのはTさん宅で、サラリーマンの息子さん1家との同居を機に、蔵を壊した跡に、老夫婦が隠居するための小さな家を建てた。小さいながらも屋根は見栄え良く入母屋造りとし、古い建物の礎石として使われていた石を新しい住宅の玄関先に並べ、「本町古道」という愛称まで付けて楽しんでいる。息子さん1家は広い主家を改修して暮らしている。Tさんが、隠居生活になっても尚、生活を楽しみながら上手に住まわれていることに感心した。
 また、快適な生活のための工夫として、近所にあるものを上手に使っているところが見られた。代表的なのは駐車場である。道路に壁が接する町屋形式の住宅では、駐車場をとるのは困難な場合が多い。「自動車はどうされているんですか」と聞くと、「近所の月極駐車場を借りています」と答えたお宅が何軒かあった。最近は、老朽化した建物の取り壊しなどで、本町筋にも月極駐車場が増えている。それ自体は残念なことであるが、そういうところを、町屋に住んでいる人が利用できるのはよいことだと思った。駐車場以外にも、向かいの住宅を購入して倉庫として使っているお店などもあった。
 もちろん、住人が抱えている問題も色々あることがわかった。特に、規模の大きな住宅の方が、より深刻な問題を抱えている。江戸時代や明治時代に建てられた大きな家というのは、その地域の集会所を兼ねており、部屋の大部分が座敷などの接待空間となっている。そのため家人の生活のためのスペースは狭く、建物の主たる機能が「接待」から「居住」に移った現在では、住人が広い接待空間を少々持て余している様子が伺えた。また、大規模な町屋は、当然ながら掃除が大変である。お手伝いさんがいたような時代ならともかく、高齢の夫婦が2人で暮らしているような場合、広い屋敷の隅々まで掃除することは不可能である。規模に比例して、維持管理のための費用も当然大きくなってくる。屋根などを修繕する時には巨額の費用が必要になるし、敷地が広ければ税金も高い。
 しかし、Oさん宅では、そういった問題を乗り越えるためのヒントとなる話を聞くことができた。Oさん宅は、道路計画のために大きな町屋を曳き家するとともに、生活空間を増築して快適な暮らしを手に入れたのであるが、最初に依頼した工務店が、古い町屋についての知識がほとんどなかったために、その後非常に苦労することになってしまった。結果的には信頼できる設計事務所に依頼して、無事完成させることができたが、最初にもっとよい工務店の情報を知っていれば、あんなに苦労しなくて済んだのに、と言われていた。また、古い建物の修繕にあたって、有利な融資がないのも問題と指摘されていた。よい工務店の情報提供や、修繕に対する融資などは、大規模な町屋の住人を応援する方法として有効であろうと感じた。
 10軒のヒアリングの中で、実に色々な情報を得ることができた。これによって、町屋に暮らす人々と知り合いになれたのも嬉しい。今回の結果をもとに、津島らしさを生かしたこれからの町並みのあり方について考えていきたいと思う。

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