特集 まちを使いこなす

公園はみんなの「遊び」の基地、防潮壁はみんなのキャンバスだ
〜名古屋市築地地区における住民のとりくみ〜

石田 富男

 「距離では負けたけど、飛んでいる時間なら子供に負けないぞ!」

2002年3月24日、ゆめランド1周年記念事業として親子による伝承遊び大会が開催された。紙飛行機とばしでは、子供と大人が一緒になって距離や滞空時間を競い合った(写真参照)。あちこちで、こまやビー玉など懐かしい遊びを大人と子供が一緒になって楽しんだり、手作りの豚汁もふるまわれた。ユニークな遊具のある公園は子供達の人気の的。にぎやかな声がいつも聞こえてくる。それだけではない。地域を花一杯にしようと端材を用いたプランターづくりも公園で行われた。公園が地域のコミュニティの場として積極的に活用されているのだ。
ゆめランド1周年記念「伝承遊び大会」

「こんなところに階段があるぞ!」「滝の中にシャチがいるぞ!」

 2002年5月末、防潮壁に2つのトリックアートが出現した。それまで、汚く汚れていた防潮壁が港のワンダースポットに生まれ変わったのだ。よくみると、その他のところにも何やら絵が描かれている。こちらは、地元出身の画家の卵と小学生の合作による港のお祭りの風景。祭り風景の下絵に子供達がまちの人を描き込んだ(写真参照)。今まで、どちらかというと地域を分断する壁としてしか見られていなかった防潮壁が地域を楽しく演出する空間に変わりつつあるのだ。

子供たちによる絵

まちづくりのきっかけ

 築地地区は「港まち」として発展したところだが、港湾機能の沖合展開の中で、当地区の港湾機能が低下し、このような中で、市民に親しまれるみなとづくりが行政の課題としてとりあげられた。当初は行政の取り組みが中心であったが、1986年度に再開発事業の実施に伴う地元組織を母体として「築地ポートタウン21まちづくりの会」が発足したことを契機に住民が主体的に関わるまちづくりがはじまった。
  「夢塾21」はまちづくりの会の中に設置された専門委員会の愛称だ。当初は1年間の活動として1996年に発足したが、タウンウォッチングなどの取り組みを通じて、まちづくりに対する関心が高まり、具体的なまちづくりに取り組みたいということになった。その第1弾が稲荷公園の再整備の計画づくりである。

稲荷公園の再整備のとりくみ

 老朽化していた稲荷公園は、築地地区が福祉のモデル地区に選ばれたこともあり、その視点からの再整備が課題となっていた。そこで、夢塾21がワークショップ(WS)実行委員会としての役割を果たし、4回のWSによって愛称を「ゆめランド」とする計画案をとりまとめた。
 公園という身近な施設を対象として住民の方々が主体的に考えたことは様々な面で成果があったが、その中でも最も大きなものとして住民の意識の変化があげられる。当初、トイレの設置に反対していた公園周辺の人々が、子ども達の声を聞くなどする中で、トイレの重要性を認識し、設置する方向でまとまったのだ。

住民に愛される公園に

 公園の整備にあたっては、住民の手作りのものを公園に設置しようということで「絵タイルづくり」が行われた。小雨まじりの寒い日にもかかわらず、400名もの地域住民の参加によって絵タイルが作成され、公園の通路やコンクリートウォールなどにとりつけられた。さらに、2001年3月の公園のオープニングに際しては、地元主催のイベントも実施され、未来の自分への手紙がタイムカプセルにして公園に埋められた。
 稲荷公園は地区内の貴重な公園であるが、再整備前までは多くの人々に日常的に利用されているとはいいがたい状況にあった。それがこのような取り組み通じて公園に対する愛着がわき、その管理についても地域で取り組んでいこうということになり、ゆめランド稲荷公園愛護会が学区全体の住民の参加によって作られた。冒頭の取り組みは、この愛護会が中心になって行っているものである。


第2弾は防潮壁の修景

 公園づくりの取り組みは地域の住民にまちづくりの面白さに気づく機会となり、具体的なまちづくりの第2弾として、防潮壁の修景に取り組むことになった。すでに防潮壁の機能を失っており、取り壊すこともできるのでは、ということからいろいろなアイデアが出された。稲荷公園の時と同じようにメンバー以外の声も取り入れようということから、3回のWSを行い、2年間の活動の成果として防潮壁の修景に関する提言をとりまとめた。
 稲荷公園の場合は、夢塾21の提言を受けて、行政のお金で再整備が行われたわけだが、防潮壁に関しては、行政課題として取り上げられていたわけではなく、提言したままでは実現の可能性はない。
 そこで、今度は提言の具体化に向けて、2001年度よりそれを実践に移す活動に取り組んでいる。6つの計画ごとに担当を定め、2つずつが1つのグループとなり、それぞれのグループワークをすすめる中で少しずつ形になってきている。
 冒頭で紹介したトリックアートと子供達による絵はその一部であり、この他にも、ギャラリー風写真展示を行うため、港の昔の写真を集めたり、防潮壁の下部の土の部分を利用した緑化や銘板の設置、アーティストとの協働による作品展示、愛称募集などの検討をすすめている。

集めた写真を学区の運動会で展示。参加者に人気投票をしてもらった(2002.10.6


トリックアートの描かれた防潮壁の前を花壇にしてきれいにする夢塾21のメンバー(2002.10.19)

新たなまちづくりの展開

 港区では、特色ある区づくりとして「ガーデンふ頭界隈にぎわいづくり」がテーマの1つにあげられている。その方策検討にあたっても築地地区の住民がメンバーとして加わり、提言を取りまとめるとともに、その方策としてあげた「アートを活用したまちの魅力づくり」の具体的取り組みとして、10月に@ポート02を開催した。空家を活用したアートスペース「KIGUTU」を拠点として防潮壁にビデオアートを映写するなど、まちを舞台に様々な作品展示が行われた。
 ガーデンふ頭では倉庫を活用したアートポートという取り組みが1999年より毎年行われており、2002年10月には電子芸術国際会議も開催され、名古屋港がアートのまちとしてイメージされつつある。しかし、住民のアートに対する関心は高くなく、「アーティストが勝手にやってきて楽しんでいる」というような捕らえ方がされてきた。@ポート02においても「これがアート?」という声も聞かれたが、アーティストと住民が交流することで、徐々にアートがまちに浸透しつつある。
 公園、防潮壁そしてまちなかと住民が楽しみながら、活動を展開する舞台を広げている。まちをうまく使いこなした時、まちは元気になる。その好例として築地のまちづくりに注目していきたい。

アーティストと住民がまちを一緒に歩き討論するRe/mapプロジェクト。跳ね橋を歩く。(2002.11.2)

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