特集 名古屋の都心考
石田富男
名古屋市の中区の人口が増加している。一時、減少していた名古屋市の人口は1997年以降、増加に転じているが、時を同じくして中区の人口も増加に転じた。その増加率は市全体の増加率よりも大きい。東京圏では都心でのマンション供給が盛んになり「都心回帰」がトレンドとして紹介されている。名古屋の現象も同じような現象にみえる。名古屋でも都心居住がトレンドなのだろうか。 ここに興味深いデータがある。愛知県に居住する人に対して「移転する場合の希望居住地」や「名古屋市の都心部への居住意向とその理由」などを聞いたアンケート調査*である。 「もし、移転するとしたら」という仮定で「都心部」「古くからの市街地」「郊外部」の3つを選んでもらうと、「郊外部」が6割弱、「都心部」と「古くからの市街地」がそれぞれ2割強という結果になる。どの年齢層においても「郊外部」がトップである。 一方、「名古屋市の都心部に居住することについて」という質問に対しては、「住んでみたい」が4割、「住みたくない」が6割である。住んでみたいの理由として「便利でよい」が飛び抜けて多いのに対して、住みたくないの理由としては「ざわざわして落ち着かない」「生活費が高い」「自然が少ない」のほか、自由意見として「空気が悪い」「交通量が多い」「治安が悪い」など多様な理由があげられている。この地域に住む人にとって都心は非日常の空間としてとらえられ、住環境に対するマイナスイメージが大きく、住む場所として考えられていないといえるのではないだろうか。なお、名古屋市居住者とそれ以外にわけてみると、名古屋市居住者では「住んでみたい」というものの方が多く、都心を身近な空間としてとらえている結果が反映されていると考えられる。 興味深いのは「移転する場合の希望居住地」として「郊外部」をあげたもののうちの2割が名古屋市の都心部に「住んでみたい」と回答していることである。定住の場所としては「郊外部」をあげながら、一時的な居住地としては「都心部」にも興味を示しているといえる。 また、都心部に住んでみたい理由として「年齢が高くなってからの住まいとなるといろいろと便利なほうがいいので都心部もいいかなと思う」という回答があり、高齢者の居住地選択の一つとしてあげられていることもわかる。 以上から、名古屋では郊外居住志向が高いものの、都心居住意向を有するものも確実に存在するといえる。多様な選択肢の一つとして、都心居住も推進していく必要があるといえよう。 余談ではあるが、アンケートの調査方法としてのインターネット利用についてもふれてみたい。これまでのアンケート調査では、調査対象を定め、対象となる世帯を無作為抽出し、郵送等によって回収するという方法がとられてきたが、調査対象世帯の抽出や配布回収の手間に比べ、回収率が低いという問題があり、調査対象を広げれば広げるだけ、対象世帯の抽出作業は大変となる。 それに対し、インターネットメールを活用すれば簡単にアンケートの配布回収ができる。調査対象にとらわれることもない。インターネット上には電子メールによるマーケティングサービスというシステムがいくつかある。そのしくみは、ダイレクトメールやアンケートを送付する会員を登録しており、その中から属性に応じて調査対象をピックアップし、アンケートメールを送付。アンケートに回答した会員にはその結果に応じてポイントが与えられ、図書券や商品券に交換できるというシステムである。 今回の調査では愛知県の居住者で学生を除き、興味ジャンルを「住宅・土地」と登録した会員から二千人を抽出し、九二七人から回答を得た。アンケート送付後3日後には800通以上の回答が得られており、迅速に調査をする上でも有効である。問題は、回答者が電子メールを活用できる人に限られるという点。今回の調査でも50歳以上の回答者は4%にすぎなかった。このような限界はあるものの、多様なニーズを把握する方法の一つとして活用できるのではないだろうか。 *都市基盤整備公団中部支社からの委託調査「納屋橋地区における住宅需要調査」の一環として実施したもの。質問項目は8項目。 |
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