スペーシアレポート
浅野泰樹
シドニーオリンピック金メダリスト高橋尚子を祝う垂れ幕をなびかせた風は、厳しさを増しつつある中心市街地に新しい何かを運んでくれたのであろうか。 人口40万人の地方中核都市、岐阜。21世紀、都市の生き残りをかけ、民・公による再開発が動き始めている。 岐阜市の長年の懸案であった中心市街地の南北分断解消をめざしたJR線連続立体交差事業の完成からほぼ5年、この間、南口駅前広場、公共駐車場、157号線の整備など、官主導による公共施設が先行して整備されてきたが、民間の建物整備は全くと言っていいほど進まなかった。しかし、昨年、高架下事業として森ビル都市企画と岐阜県による「公設民営方式」を採用した「ワールドデザインシティ・岐阜」がオープンし、中小アパレルメーカーが集積するレップマートや伝統工芸品から最先端デザインのアーティストが集うワークステーション・匠の工房などユニークな施設ができあがった。 また、名鉄新岐阜駅北に名古屋のナディアパークと同様に名鉄が事業主体となる「ロフト」が建設され、岐阜パルコを中心とする若者の街に新しい拠点が加わった。さらに、駅南口では、酒造メーカーと岐阜県住宅供給公社の共同により店舗(酒蔵・飲食等)と賃貸住宅の複合ビル建設(優良建築物等整備事業)が着工している。 JR岐阜駅前の吉野町五丁目東地区では、昨年、市街地再開発準備組合が設立され、現在、事業の都市計画決定の手続が進んでおり、駅前広場の公共デッキの整備にあわせ都市景観や環境に配慮したシンボル的なオフィスビルの建設が計画されている。最上階には庭園内に民間運営の美術館整備も構想され、駅前の新しい顔が生まれるものと期待されている。 アパレルメーカーの集積する問屋街では、長年、産業の活性化と老朽建物の改善を目的とし、一体的かつ広範囲での再開発が検討されてきたが、社会・経済情勢の変化を踏まえ、可能なところから段階的に整備するという方針に転換し、JR岐阜駅に面する2地区で実現化にむけた動きが始まっている。そのうち問屋町西部地区(問屋街は、大きく西部、中部、東部で構成されている)では、約南半分の1.1haの区域で権利者62名(現会員数:64名)による南街区市街地再開発準備会が新たに設立された。現在、アパレル産業基盤を強化するための21世紀型マートの整備や都心居住促進のための都市型住宅の建設等をめざして、産業活性化の新たなソフト構築と施設計画の検討が進んでいる。 岐阜市の中心商店街柳ケ瀬では、近年、郊外及び周辺都市でアミューズメント型大規模店舗の建設が相次ぎ、地盤沈下が顕著になりつつある状況下にあって、近鉄百貨店の撤退という事態に至った。それに呼応するように、高島屋南地区では、約10年にわたる紆余曲折したまちづくりの検討過程を経て、まちのリーダー達が大きく一歩を踏み出した。生活拠点の再創造をめざしたまちづくりの活動を強力に推進するため、高島屋南地区まちづくり協議会(略称:TMK、会員数52名)を設立、柳ケ瀬の浮沈をかけた再開発事業として、権利者をはじめ関係機関へ積極的な協力を呼びかけている。 岐阜市では、これまでアパレルをはじめ各種産業の発展が柳ケ瀬地区の商業基盤を支えるといういわば地域循環的な経済を築いてきた。しかし、流通構造の大きな変革と安価な海外製品へのシフト等により厳しい競争にさらされているアパレル産業の停滞は、柳ケ瀬地区の経済基盤にも大きな影を落としているのではなかろうか。 岐阜駅前、柳ケ瀬の両地区の再開発が、産業構造や都市構造の変革・再構築の視点から、それぞれ関連・協調性をもって推進されれば、新たな地域経済の循環作用を生むであろう。 市においても、中心市街地活性化基本計画の策定や都市再生総合整備事業に基づく都市居住の重点地域の指定・さらには行政担当者による地元組織活動への人的支援など、民間再開発の事業化を強く押し進めている。 21世紀、岐阜は大きく変わり始めようとしている。民・民及び民・公の連携による民間再開発が、高橋尚子のように輝かしい道を力強く着実に進んでいくことに期待したい。 |
高架下を活用したワールドデザインシティ・岐阜 |
柳ヶ瀬の活性化のため、T.M.Kを設立した高島屋南地区 |
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新岐阜駅に誕生した新しい拠点「ロフト」 |
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再開発の検討が進んでる繊維問屋街 |