特集 過去・未来まちづくり10YEARS

寄稿 21世紀まちづくりメッセージ

今回の特集は「過去・未来まちづくり10年」。
その巻頭として業務等を通じての関わりの中から、情報・経済・地方分権・商店街活性化・環境・農村交流などそれぞれの立場でまちづくりに携わっている6名の方に、21世紀のまちづくりメッセージをいただきました。

カスタムメードの時代/青山公三
美しい棚田の風景を次の世代に/飯田容子
情報ネットワークと21世紀の新しいまちづくり/小栗宏次
地方分権時代のまちづくり/米村恵子
この地域から地域循環型市民社会ははじまる/萩原喜之
人がつくるまちづくり 生活感あふれる大須商店街の取り組み/中野俊治

カスタムメードの時代/青山公三

ニューヨーク大学・行政研究所(IPA)上席研究員 
地域問題研究所研究員・事業部長・事務局次長を経て渡米。在職中、中部各地の地域づくりに協力した他、中部圏の主要プロジェクト調査に参画。国土庁地域振興アドバイザー(90〜92)に参加。名古屋市生まれ。

 結局、90年代はアメリカの一人勝ちに終わった。90年代初めに堺屋太一氏が「アメリカは崩壊する」と書いたが、全くその逆になってしまった。80年代初めに生まれたインターネットが、90年代に爆発的に伸び、それが「崩壊しそうだった」アメリカ経済を救い、現在迄の成長を支えている。
 今やアメリカでは42%以上の世帯がコンピューターを持ち、国民の20%以上がインターネットを利用している(1998年)。所得が5万ドルを超える世帯では70%以上がコンピューターを持つ。これを背景に、今アメリカで巨大な変革が進行している。E-Commerce(電子商取引)がその一つである。
 デル・コンピューターは、その売上の30%をインターネットで売り、今やマーケットシェアNo.1のコンパックを急追している。インターネットを通じて自分に必要なソフト、機能を装備するカスタムメードのコンピューターを注文でき、セキュリティに守られた顧客別のウエブページまである。E-Commerceは、自動車や家具、家電、洋服、はてはシャンプーに至るまでカスタムメードを可能にしつつある。自分の好み、必要に合わせて製品の仕様を指定できる。これには単に販売部門だけでなく、材料・部品調達から生産、顧客管理に至る迄インターネットで直結したシステム構築が必要となる。99年時点でアメリカ大企業の65%は企業間取引のシステム構築を開始した。取引額も既に1千億ドルに達し、2002年には8千億ドルと予測される。個人向けE-Commerceもそれに追随している。
 インターネットは90年代にマルチメディア産業を生み出し、それが今度は個々人の要求を満たす道具として新たな展開を始めた。これに乗り遅れたら、2000年代もアメリカの独走を許すことになる。蛇足だが、「道具」という意味では、アメリカではまちづくりや都市づくりでもインターネットや地理情報システム(GIS)を駆使してカスタムメードのまちづくりが進んでいる。日本のまちづくりも、いい加減、猫も杓子も内外の先進地に学ぶなどということをやめてカスタムメードのまちづくりを、情報ツールをうまく使ってやってみてはどうだろう。

美しい棚田の風景を次の世代に/飯田容子

恵那市に、5,000坪の農地を持つ農園主。また名古屋駅前のビジネスホテル「ルウェスト名古屋」の経営、補正下着店のオーナーなど多彩な顔を持つ。名古屋市生まれ。

 この数年「里山」とか「棚田」といった言葉が新聞紙上や、マスコミによく取りあげられるようになりました。
自然の少なくなった都市住民にとっての手近な自然として、また、きれいな水や、空気の生産の場としての認識が高まっているのだと思います。
 もうすぐ4年目に入る恵那ファームは、山と川に囲まれた美しい棚田の風景を次の世代に手渡したいと始まった活動で、築300年の古い農家を含む山林、田、畑、合わせて5千坪がフィールドです。 
 敷地内から出る湧き水を含め、米、野菜、果樹、山菜などを生産する自給自足の典型的な農園ですが、若者を中心とした大勢のボランティアによって支えられています。
 毎月の集合日には農作業のほかに、「食」をテーマとしてのイベント、竹筒ごはんづくり、五平もち作り、蕎麦打ち、餅つきなどを企画しています。
 いま、恵那ファームでは、この自然に恵まれたフィールドを使って、子供たちに、知育中心の教育システムの中でおきざりにされている「遊び」や体験を通しての学びの場をつくるとともに、環境や、自然について考える機会をつくっていきたいと思っています。
 その試みの一つとして、この夏休みには、専門の講師陣を迎えて里山体験教室を企画実施して100名近い親子連れが参加して楽しみました。
 このような企画をもっと楽しくするため、講師をサポートし、子供たちを指導できるような人材を育てようと、農園スタッフや一般のボランティアスタッフを養成する私塾を開設する準備を進めています。
米作り、ハーブ、炭焼き、カヌー、リサイクルなど、学習カリキュラムを実施させてレベルの高い、永続的な企画と発信を目指して、いま小さな組織作りを始めています。

情報ネットワークと21世紀の新しいまちづくり/小栗宏次

愛知県立大学情報科学部教授 工学博士 
専門分野:情報システム、知的情報処理。名工大助手を経て、県大助教授、平成10年より現職。現在、ドイツ連邦共和国Universitat der Bw-Muenchen Visiting Professorとして在外研究中。著書に「Cによるアルゴリズムとプログラム」「インターネット時代の情報発信入門」など。名古屋市生まれ。

 文部省在外研究ならびに愛知県在外研究制度により1999年8月から約1年間の予定でミュンヘンに滞在している。
 情報システム及び情報通信分野を専門とする場合、一般に米国が在外研究先に選択される場合が多いが、来る21世紀を考えた時、開発消費型から共生協調型になる事を予想し、あえて欧州、それもドイツを選択した次第である。
 実際、ドイツの情報化は幾つかの有名なものを除けば全体的に世界の先端を行っているとは言えない。たとえばインターネットの利用者数について言えば、米国、日本、英国、カナダに次いで世界第五位(http://www.prnewswire.com)というデータがある。
 しかし、東西ドイツの統合、EUの誕生などにともない通信や放送の自由化により、産業のみならず地域の情報化も急速に進展している。私はここ数年、機会がある毎に「情報化による新しいまちづくり」を提案してきている。区画整理やゾーニングなどによる旧来型のまちづくりから生きた、情報あふれるまちづくりの提案である。
 南ドイツの都ミュンヘンは、中世の面影を残す街として有名である。その中心地は新市庁舎を中心に美しく景観が保全されている。この街が好きで何度も足を運んでいる。そこでは古き良き景観を守りつつ、その限られた範囲の中で新しい発展を求める様子がよくわかる。21世紀の日本が参考にすべきは、このような保全共生型のまちづくり(地域情報化)ではないかと思う。
 ここで重要なのが情報ネットワークである。何百年の歴史を誇る街並の商店街の多くがホームページを持っており、最新の商品情報などを容易に検索することができる。これらの情報は行政や商工会議所さらには航空会社といったホームページからもリンクでたどっていくことができる。
 電子商取引により、オンラインでの流通が進む一方、バーチャルの世界で情報ネットワークにより望みの商品や博物館情報、美術館情報といった情報を自由に収集し、その後、美しい景観を体感しながらリアルの世界でショッピングや散歩を楽しむ…こういった人々が確実に増えてきているように思う。
 街を人体にたとえるならば、さしずめ「情報ネットワーク」は「神経系」の充実とでも言えるだろう。
日進月歩で変化する情報化社会の中で、目先の変化に左右される事なく21世紀の日本の進むべき姿を、欧州を参考にしばらく調査を続けようと思う。

地方分権時代のまちづくり/米村恵子

江戸川大学社会学部環境情報学科助教授
専門分野:余暇社会学、環境社会学 余暇開発センターを経て現職。主に価値観調査、ライフスタイル調査に携わる。共著に「心豊かな社会論」「世界23ケ国価値観データブック」など。金沢市生まれ。

 2000年4月からの地方分権一括法施行に伴い、機関委任事務制度が廃止され、地方自治体の運営が、自立と責任のもと、中央主導のモデル追従や横並びでは済まない、独自の目標やビジョンを設定し地域の実状に即したプランニングによって実行される時代になる。
 分権一括法の狙いは、行政間の関係再編に留まるものではなく、地域づくりにおける行政と住民の役割分担の再構築にある。行政と住民の新しいパートナーシップが模索されており、自立と責任は、地域に暮らす人々にこそ期待されているといえる。
 今後は地域によって負担やサービスが異なることが予想され、すでに、よりよい介護サービスを求めて住民移動が起こっているという。グリーン購入による「投票」同様、居住地選定やまちづくりへの参画度合いによる 「投票」が絵空事ではない時代になろうとしているのである。
よい住民をどれだけ地域に引き寄せ、地域運営のよいパートナーになってもらうか。行政と住民の仲介やコーディネイトに、長くまちづくりに携わってきたプロのコンサルタント能力が活かされる機会は格段に増えることだろう。
 分権では財政的自立が最大の課題であり、積極的に収入を増やす工夫が必要だ。それには、官民一体で地域を磨いて売り出すビジネス、つまり「光を示す・見せる」という、本来の意味での広義の観光以外にないのではないか。今、産業遺産やエコツーリズムのような地域の生活資源を活かした観光が注目されているが、このビジネスの実践には、ゲスト・ホスト双方の膨大な自由時間を活かしたい。需給双方の潜在的なニーズをすくい上げ、プログラム化していくという、プロの力量が求められる場がここにもある。
 最近、楽しみとして関与する活動が結果的に社会性を帯びてくる「社会性余暇」という概念が登場しているが、それは、昔ながらのコミュニティが崩れたり、積年の実績ゆえに逆にマイナスを背負い込んでフットワークを鈍らせている所が多い中で、地縁・血縁・職場縁といった拘束的な関係とは別の、選択的ネットワークによる新しい社会参加・新しい互助形態を探る動きと見ることができる。
 地域の人が楽しみとして自主的にわが町に関わり、的確なコーディネーターに導かれて魅力を発見して育てる。そして、個性溢れるまちづくりがあちこちでなされ、その個性に惹かれて人々が縦横に交流するようになれば、最高の分権効果といえよう。

この地域から地域循環型市民社会ははじまる/萩原喜之

1980年中部リサイクル運動市民の会設立、代表となる。名古屋市新世紀計画2010審議会委員、市民フォーラム21・NPOセンター常務理事、日本NPOセンター理事、愛知県環境審議会委員、日本国際博覧会協会企画運営委員も務める。静岡県小笠郡生まれ。

 設立20年を迎えた中部リサイクル運動市民の会は、昨年2月18日名古屋市の「ゴミ非常事態宣言」を受け、総力を挙げ名古屋市のゴミに挑んでいます。2005年に開催の予定されている愛知万博までには玄関口となる名古屋市を循環型都市に再生させたいのです。そのために、会は2000年6月に開催されるドイツ、ハノーバー万博に「市民がつくるゴミ減量計画(通称「名古屋ルール」)」を会場外国際プロジェクトとして日本で唯一ノミネートさせています。この国際プロジェクトは「人類が直面している、21世紀の持続可能な発展を促進する可能性のある解決法を共有することによって、人々と地域に活力を与えること」を目的としています。
 いま、名古屋は行政の動きを超えて市民、企業の自発的動きが始まっています。いままでには考えられなかったことです。「地域循環型市民社会」がこの地から始まろうとしています。「循環型社会」を会の使命(ミッション)としてきた中部リサイクルは、昨年全スタッフで半年をかけ、これからの時代に向け使命の再構築を行い、新たに「地域」と「市民」を加え「地域循環型市民社会を目指して」としました。20年前、誰もが参加できる活動をと家庭の再利用からのスタートでしたが、時代は移り、もはや環境問題はこの10年が正念場となってきました。今私たちは啓発期を終え、システム構築をしなくてはいけない段階に入ってきたと考えています。イベント屋を卒業しDoing-タンクをめざそうとしています。そのためにもスペーシアのような専門性のある人達とのコラボレーションが必要です。このところスタッフの方々との個人的なつながりもでき始めていますが、今年は何か具体的なプロジェクトを立ち上げていけたらと思っています。

人がつくるまちづくり 生活感あふれる大須商店街の取り組み/中野俊治

大須商店街連盟会長 若者やお年寄りで賑わう大須地区8商店街(加盟店400店弱)の運営の立て役者。幼い頃から大須で育ち、長期にわたりまちづくりに係わる。中野呉服店店長。名古屋市生まれ。

 名古屋市の中心部にある大須商店街は、古くは大須観音の門前町として栄えた。しかし、今日では呉服屋、団子屋など昔ながらの店があり、パソコン、古着屋など新規出店もあり、栄や名駅にはない生活感にあふれ、若者からお年寄りまであらゆる世代の人で賑わい、「アナログとデジタルの共存するまち」となっている。
 一時は名古屋圏最大の商業地・栄の発展に取り残されて衰退の一途をたどり、再び賑わいを取り戻すのに20年ほどかかった。
現在、大須には8つの商店街があるが、大須商店街連盟がこれらを束ねており、早くからALL大須でまちづくりを考えてきた。若い商店主2〜30人ほどが中心に取り組んでおり、その発想がまちづくりに活かされている。
 具体的には、今年で22回目を迎えた大須大道町人祭、マップづくり、ホームページの開設など、ソフト重視で取り組んできた。もし仮に、ハード重視で大規模な再開発が行われていたとしたら、今日のような賑わいは失われていたであろう。まちをつくるのはモノ(箱物)ではなく人である。
 近年、多くの商店街が後継者難に悩まされているが、まちに魅力があれば子どもは後を継ぐだろうし、後を継いだ子どもはさらにお客に足を運んでもらおうと努力をするだろう。後継ぎがいなければ、新規参入者に店を貸すことができる。大須では古くからの店も新しい店も、それぞれの商店主が努力を重ねている。努力すれば人が来て、人が来ればさらに努力し、まち全体に相乗効果が生まれ、現在では空き店舗が実質ゼロとなっている。
 今後の課題は、ベンチャーなどの新規参入者に、まちのルールを理解してもらうとともに、これらの人達と共同でまちの活性化に取り組んでいくことである。
 最後に、これからのまちづくりにおけるコンサルタントの役割として、企画や計画立案を担うよりはむしろ、地域の人達のアイデアをうまく引き出すとともに、全体をコーディネートすることが求められる。自分たちのアイデアがまちづくりに反映されれば、地域の人達はやる気を持って取り組む。そのためには、机上で青写真を描くのではなく、地域に深く入ってより多くの人とコミュニケーションを深めてほしい。

目次に戻る