好奇心いっぱいラバさんとまちの達人ダブさん地図づくり対談

佐藤英治(名古屋芸術大学ビジュアルデザイン研究室)&竹内郁(スペーシア)

●地図いろいろ

ラバ:今日は地図づくりについてお話をしたいと思います。地図にもさまざまな形が。

ダブ:地図は場所の説明図だから、たぶん、文字が発明されるよりもずっと前にできていたような気がします、おそらく、狩の場所、牧場や畑など、自分たちの所有地を明らかにしたんでしょう。

:語源をみると、英語のプラント(plant)は「植物」と同じなんですよね。何もない平たい土地に木を植えていく感じかな。「計画」という意味もあるんだけど。

:都市計画の設計図を完成後、一番偉い人の部屋の壁に飾るため、絵地図のように紙に描いたものが二つ目のカートン(carton)なんだろうね。

:一番なじみのあるマップ(map)は、もともと天体図や地球儀など、調査資料を基に、相似的な形として分かり易い図に置き換えたものなんですね。

 地球儀って、私たちと向井さんとでは、全然見え方が違うんでしょうか。実際に見ているのと見ていないのとでは。

:DNAなんか、実際は見えないけど、はしご状のらせん形をしたモデル図(模式図)で、その成り立ちがきちんと説明されているから、皆そういうものなんだろうと思っている。モデル図があると、遺伝子確認などの作業がずっと簡単になる。

:それでは、向井さんも、地球儀で陸地がどんな形をして、どこの国がどこにあるかを知っているから、地球って実感できるんですね。

:知らない所だったら、不安で何日も飛んでいられないかも。

:計画をするのがplant、さまざまなデータから図にするのがmap、出来上がりの地図がcartonということですか。

:つまり、地図づくりの手順そのままという感じですね。地図の持つ機能というか、作用といったものを、それぞれの場面、水準で考えなければならない。誰がどう使うのかを、整理して表現できれば、計画する段階から、良い効果が期待できそう。

●地図づくりとまちづくり

:先日「完全・遊歩マニュアル」という地図を作った時、手伝ってもらったのですが。

:最初、試案の作成という依頼で引き受けたのですが、いくつかの課題が解決されないまま印刷物になったので、いくぶん消化不良気味です。

:でも、評判はまずまずといった…

:それはカートン(carton)の部分での評価だけでしょ。そこの評価は最も重要だけど、今回の地図づくりでは、プロセスの方にも比重をかけるつもりだった。

:そうですね、試作地図を使って、住んでいる人たちと、何度もワークショップをしながら、いっしょに地図を完成させようという計画でした。

:むしろ、私の個人的な興味は、そちらの方にあったんです。まちを発展させるとか、良くするといっても、なかなか住んでる人たちが盛り上がらないのが実情のようです。商業活動をするには便利でにぎわって欲しいし、生活するには、閑静で清潔で安全なほうが良いといった、矛盾した欲求があります。それを解決するには、まず、住んでいる所をよく知ることが必要となりますよね。

:どこに何があって、そこでは誰がどんな暮らしをしているのかということですね。

:こんなまちにしたいというのは、誰でも簡単に言うことができるけど、そのまち独特のものにするのはかなり難しいようです。でも、矛盾に気がつくと、そこには、一つひとつの問題が別々に存在しているのではなくて、複雑な関係を構成していることが見えてきます。問題の解決方法や答えも一つではなく、たくさんあることが、自然に分かるんじゃないでしょうか。

:地図づくりをとおして、そのまちと仲良くなって、仲良くなったら、今度はお客さんを招けるようなまちにしたいといった構想を地図で確認してみる。つまり、地図づくりとまちづくりが連携しているということですか。

:だから今回の試作では、まず、こんな物があったのかと、自分たちのまちを知ってもらうという意味合いが強かった。

:資料を手に入れるため何度も歩いたんですが、その度に新発見があり、時間も体力もかかって大変でした。でも、作業の中では取材がいちばん楽しかった。

:その楽しさを伝えたかったんですよね。宝探しのように、何かありそうだと、ヒントを頼りにして新鮮な気分で歩ける…。

:「遊歩マニュアル」という名前は、地図らしくないけれど、今回の企画意図にはぴったりで、効果としてもまずまずと思っています。

:表の面では、テーマに合わせて写真を構成する。見る人は、写真にキャプションが無いからどこか分からない、でも魅力的だからいつか行ってみたいと思ってくれる。簡単には行かないけど、計画では、裏面の地図とリンクするはずだったんだよね。

●地図にナニを載せるか

:「超不親切マップ」ってやつですか。でも、困っている人の役に立つ「親切マップ」が必要なときもありますよね。

:案内図としての地図ですね。目的地が決まっていて、正確に、効率的にたどり着きたい時には必要でしょうね。普通、良い地図というと、それが求められます。人が地形をどのように認知するか、地図上での距離の変形はどの程度まで可能か、また記号や絵の美しい使い方、文字の読みやすさなど、工夫しなければならない項目を挙げればきりがないほど、地図づくりは奥が深い。

:目的地を探す時、地図の距離がかなり違っていたり、道路の幅や数が違っていて迷ってしまったという体験は誰でもありそう。

:お店などで、客寄せのためにわざと近く描くこともある。印刷物や看板だと、長方形の枠に入れるために、あるいはデザインのために美しく見せようと、省略したり変形することも少なくないですね。

:航空写真のように、空から見たままではかえって案内図としては分かりにくい。どこを省略してどこを強調するかが、良い地図かどうかですね。施設などが密集しているところでは特に判断が難しそう。

:省略にも記号化や簡略化といった方法があって、その水準もさまざまあります。それは、デザイナーに試作をしてもらって検証すればいいと思う。

:問題は、載せるものが私的なものか、公的なものかの判断ですしょうね。私的なものでもランドマークになっていたり、公的なものでも地域の人と馴染みのないものなど判断に困ることがありますね。

:はっきりいって正解はないと思います。言えるのは、そこに住んでいる人たちにとっての価値観を優先するのが適当ではないかということです。客観的な判断より、住んでいる人の考えが素直に表現されている方を選びたいと思っています。

:市民自身も地図づくりを通して、外の人に分かってもらうためには、客観性が必要だと気がつきますよね。つまり、市民参加型の地図が一番だということですか。

:市民の側から要求があって、提案されて、まちの発展とともに成長し、歴史を作っていける物であって欲しいですね。

:いつか、そんな地図づくりをいっしょにできたらうれしいですね。

目次に戻る