商店街活性化とまちづくり
−住民とともに商店街活性化とまちづくりに取り組んだある商店街の試み−/村井亮治
『桑名市寺町通り商店街』
ここでは、商店街活性化とまちづくりに向けて、商店街が中心となり地域住民を巻き込み取り組んだ三重県桑名市の『寺町通り商店街(以下、「寺町」)』での試みとその後の動きを簡潔にレポートする。
寺町は、桑名市の東部で、桑名駅からは徒歩約十分の所に位置する。周辺には、九華公園桑名城址、史跡七里の渡し、六華苑や寺院等の歴史的価値のある資源が多く立地している。そもそも、そうした寺院等への参拝客により発展したもので、商店街の西にある真宗大谷派別院本統寺は「御坊さん」として地域住民から親しまれている。一方東には、桑名城の外堀となる「寺町堀」がある。明治初期までは農業用水として利用され、魚釣ができるなどの親水空間だったが、現在では埋め立てられ堀の跡が残るのみである。
ここ寺町では、五十年以上の歴史がある「三八市(三と八がつく日に行う市)」等の販促活動や市民と行政との共同事業「桑名の殿様御台所祭・千姫折鶴祭」を展開するなど、活性化に向け取り組んできた。しかし、さらに魅力ある商店街とするために、寺町堀の活用を図ることを決め、再整備に向けた検討をすることとなった。
我々は、商店街からの要望を受けて、計画づくりとともに商店街の活性化も図られるよう、二つのワークショップを提案した。これには、計画づくりに地域住民の声を反映させるため、まちづくり活動と商店街のイベントとを融合させ参加しやすい環境を整えることと、商店街(商店主)と地域住民との交流を図るという、大きな目的があった。
『タウンウォッチングの開催』
最初は、地域住民と商店主でいくつかのグループを作り、商店街はじめ周辺地域を観察し、それぞれが感じたまちの「宝物(すきなもの)」と「きらいなもの」を探し出す「タウンウォッチング」を行った。これには、住民の側から見た商店街や周辺地域の魅力と問題点を抽出し、今後の商店街整備やまちづくりに向けたヒントを得るという目的がある。
また、タウンウォッチングの合間には、「寺町ビンゴ」、商店主を対戦相手にした「寺町リーグ・PJ戦を勝ち取ろう」といったゲームや「商店主突撃インタビュー」等、商店主と交流ができる「遊び」を取り入れた。
タウンウォッチングで出た「宝物」や「きらいなもの」は、全て地図上に書き込み一目で見比べることができるようにした。「宝物」は、商店主の立場では気づかない新たな魅力の発見となり、今後の店づくり・まちづくりの参考になる内容であった。逆に「きらいなもの」は、従来から問題となっていたことが多く、商店主には改善の必要性を改めて認識させられる結果となり、また普段接することのない世代の人々を含めた地域住民とともに街を歩き、その問題点を直接聞いたことから大きな刺激にもなった。
『絵画コンクールの開催』
次に、子供を対象に呼びかけた「『こんな商店街で買い物したいな』絵画コンクール」を行った。これは、柔軟な発想で商店街の未来を自由に描くことを通して、次世代を担う子供達にまちづくりを考えてもらい、また商店街と親子との交流を図る目的があった。
絵画コンクールは、一般的には自宅や学校等で描き応募するが、今回は、商店街やその周辺で実際にまちをみてイメージを膨らませ描いてもらった。そのため、朝から夕方まで、常に子供達やその親等、多世代の人々が行き交い賑やかな光景があった。また、寺町ではそうした来街者をもてなすため、餅つき大会や綿菓子づくりなどのイベントを行った。
最終的には、約二百五十点もの絵画が寄せられ、そのどれもが子供らしく夢のあるもので、楽しさやおもしろさが感じられる賑やかな商店街の姿が描かれていた。大人では考えつかないようなまちづくりのヒントが盛り込まれた魅力的な作品が多くあった。
『成功のポイント』
今回の二つのワークショップは、概ね成功したといえ、その背景には次のような要素があったからと考える。
【行政の地道な支援】
寺町では、三八市やお祭りなどの活動に対して、まちづくりを指導する立場にある行政や商工会議所の職員が、その立場を離れ、ボランティア的に地道な支援が行われてきており、すでにまちづくりに対して理解・協力が得られる良好な関係が築き上げられていた。ワークショップの開催にあたっても彼らは打合や作業に積極的に参加し、商店主とともに議論しあい進めていった。そして、当日もスタッフとして貴重な戦力となった。
また、絵画コンクールでは、小学校を通した募集や、特別賞として「桑名市長賞」、「教育長賞」、「商工会議所会頭賞」を設けたいという商店街の要望に応えるため、関係機関と交渉するなど、地元の活動を理解し応援する姿勢が形として顕れていた。
【地域間のネットワーク】
一方、行政とともに、地域の人々からの支援が得られたことも大きかった。具体的には、ワークショップの会場となった本統寺、絵画コンクールで画材等の調達にあたった画材販売店、子供達の募集を呼びかけてくれた絵画教室の先生等、これまでの日常生活により培われた貴重な地域とのコミュニティやネットワークが活かされていた。
【世代を越えた良好な関係】
また、商店街組織は、異なる年齢層の人で構成され、その中では、世代による価値観の相違等から、特に若い人の意見が通らず、新たな展開を阻害してしまうことがある。しかし寺町では、年輩の経営者達が次世代を担う若手経営者達の前向きな意向を理解し、支援してきており、その姿から商店街としての「やる気」を感じることができた。さらに、その組織力の高さが、ワークショップの内容の充実度を高め、スムーズな運営につながった。
『ワークショップを終えて』
今回のワークショップは、商店街(商店主)、地域、行政の良好な関係が構築されていたことが土台となり成功した。寺町は、元気のある商店街の理想的な姿だといえる。我々は、ワークショップを踏まえ、寺町堀の整備計画や新しい「市(いち)」及び商店街の環境創りなどを提案しレポートをまとめた。
今回の成功は、商店主にとって大きな自信となった。そして、商店街ではこれを契機にまちづくりに対する意識が高まり、我々の提案を参考にして独自で企画をたて、いくつもの事業に取り組んできている。新規には、商店街のそろいの法被や買い物袋、大垂れ幕、PR用パンフレット等を作成した。また、タウンウォッチングのノウハウを活かし、地域住民に周辺の歴史文化ゾーンを知ってもらうイベント「寺町ウォッチング」を開催した。一方、従来からの活動も拡充させた。寺町だけで開催していた三八市を周辺の商店街にも呼びかけ「ビッグ三八市」と銘打ち共同開催した。これらは、若手経営者やおかみさんらで新たに結成した組織「ザ・てらまちっく委員会」により提案され繰り広げられている。この組織は、「寺町が寺町らしく(テラマチックに)、ドラマチックに活性化するように」という願いを込めて名付けられた。こうした商店街の取り組みが評価され、寺町堀についても再整備に向けて動きだしている。
商店主(住民)が主体となり、商店街活性化とまちづくりに取り組む。まさに寺町はそれを実行している。ワークショップがそのきっかけとなったといえるが、我々は、その導入部分を手助けしたに過ぎない。
これからの商店街をとりまく環境は、中心市街地活性化に向け様々な施策がうたれ、大きく変わってくるだろうが、全てが潤うとは考えにくく、淘汰され真に活気や魅力ある商店街だけが残るのではないか。そんな中でも寺町は、今の恵まれた環境と自らのやる気を持ち続けることで、元気のある商店街として、地域住民から愛され、親しまれていくことだろう。
「東海の台所、食文化都市、桑名」と「千姫と折鶴のまち、桑名」をキャッチフレーズに、平成元年より始まった。
寺町通り商店街に隣接する本統寺境内を主会場として、商店街及びその周辺において、二日間に亘り様々なイベントが繰り広げられる。締めくくりは、全国各地から送られた数万羽の折鶴が炎となって昇天する「ファイアーセレモニー」。華やかさとともに、厳粛なおももちがある。
毎年10月に開催。
1枚の折紙から数羽の鶴を折る技法を、桑名の長円寺住職、義道が考案した。
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