インタビュー 今、動き出すNPO 〜モンテ・カセムさんに聞く〜

 今、まさに動きだそうとしているNPOについて、発展途上国の人々を援助するNGO「自立のための道具の会」スタッフ、あるいは市民フォーラム21・NPOセンター代表理事など、市民活動の推進者として知られるモンテ・カセムさんに伺いました。

日本におけるNPO

 まず、NPO法が日本に誕生した経緯について教えていただきたいのですが。

カセム その前に公益活動について少し。公益活動には二つの性格があります。まず市民社会というのは市民が自分たちに必要な法律を立法する直接民主制が理想です。しかし現実にはそれは難しいわけであって、議員制による間接民主制で今の市民社会は動いています。残念なことに立法は市民の代表の議会ではなく、行政官庁においてなされているのが実状です。もっと様々な立場の市民が意見を出して行かなければなりません。そのためには意見を伝える方法や、場が必要となります。個人個人で訴えるよりも、公益活動を通すことでその方法や場を得やすくなるわけです。つまりNPO法は市民社会の理想の形に近づくために役立つわけです。

 もう一つ、「私」「共」「公」という考え方があります。ある人が何かをしたいと思う。これは「私」です。誰かのために何かをしたい、あるいは、誰かと一緒に何かをしたいと思う。これが「共」です。「私」が集まって「共」になり活動を行い、それが社会的に利益をもたらすとき、これが「公」になります。つまり近所同士の助け合い(共)で築き上げられた手法が、活動を広げ、他のコミュニティの人の役に立ったとき、それが公益となるわけです。活動の規模が大きくなればそのための環境の整備が必要となります。ここで役に立つのがNPO法と言うわけです。

R  なるほど、市民の自発的な活動による、市民社会の理想型に近づくために、公益法人の正しい姿が問われる訳ですね。

カセム  明治時代に定められた民法によって、これまで公益というのは、イコール国益を指していました。国益の番人は国家です。国家の末端は行政機関であり、行政機関が公益の番人となってしまっていた。しかし本来公益の番人は市民であるべきです。また、市民の活動は自然発生的なものであり、公益であろうとなかろうと、条件や指導を与えられるべきではありません。悪いことをしないのはもちろん大前提ですが、市民が市民のために何かをしたいと思うとき、それは権利であり「認可される」のではなく「登録する」だけで世の中に誕生すべきなのです。

 「公益」と「市民活動」の意味の取り違えがあるまま、日本の市民社会はずっと来てしまったわけです。十年ほど前から、改正を求める運動が行われていましたが、なかなか実現されなかった。というのは、日本では、メディアに載るような目立った活動はどれも行政への反対運動であったからなんです。環境問題がもっとも象徴的で、水俣病問題や成田空港建設反対運動のように、行政と反発してしまうことが多々ありました。そのために行政にも世論にも、市民公益活動とはやっかいなものであるとの思いこみが長くあったのです。ところが、阪神大震災が起こって、行政も民間も動けなかったときに、市民活動が大きな役目を果たしました。それが市民活動は、法的基盤を整備すれば、市民社会に有効なものだという証拠物件になったんです。これが大きなきっかけとなりました。

R  ということは震災がなければ、NPO法はまだ生まれていなかったのでしょうか。

カセム  おそらくそうでしょうね。震災があってもなお、ここまで成立が遅れたわけですから。今まで日本の法律において、市民活動は任意団体として扱われてきました。任意団体として今後も残ってもかまわないのですが、資産を個人でしか所有できない、公益法人にはある税の優遇措置がないなどの欠点があります。活動が大きくなると、税金の問題にぶつかるわけです。また任意団体は寄付を受けにくいシステムになっている。これが日本で、NPOが大きくならない一大要素です。

 

日本にNPOを導入する上での難点

R  日本にNPOを導入するとき、障害となるのは何でしょうか。またイギリスのチャリティー団体はどういったシステムになっているのでしょうか。チャリティ委員会は認可制ではなく、登録制なんですか?

カセム  そうです。五十万のボランタリー団体があり、内、公益性のある十八万の団体、これがチャリティーと呼ばれています。チャリティー団体には税の優遇措置がなされます。そして登録ナンバーが交付されます。これが信用保証となるわけです。チャリティーナンバーを所有することは信用を得ることにつながっています。この登録により、活動を公開し、透明度の高い団体となることが義務づけられるわけです。これが一番大事なことです。

R  信用を得ることは協力を得ることにつながるわけですね。

カセム  信用の確立のために、イギリスのチャリティーはその活動内容についてチャリティ委員会、警察、税務署から査察を受けます。これが上手く効果を上げているわけです。しかし、日本ではこの査察を監視と考える傾向があります。不正行為を回避したり、信用の確立のためにはチェックシステムは絶対必要ですが、これが日本ではあまり理解されていません。また日本ではこのチェック機能が単なる行政監視に終わる危険性もあります。チェック機能は市民、企業、教育機関など市民社会を構成するより多くの立場の人が関わることが必要で、市民社会の縮図を表す委員会のようなものが持つべきです。イギリスのチャリティ委員会は議会のもとにあり、施設や資産管理と言った事務的なことは内務省が携わっていますが、行政の影響は受けていません。これを日本のNPO法に当てはめるとすれば、県議会のもとにおくことになります。イギリスでは自然に発生しましたが、日本は法的基盤も浅く、経験を重ねる中で日本に適したシステムを探らなければならないでしょう。おそらく十年ぐらい時間がかかります。NPOが行政のもとではなく、市民の直接民主制に近い形で論じられるべきだという意識を持つことが大事です。

行政とNPOの関係づくり

R  市民活動がNPOとして、本格化していく中で行政のパートナーとしての活動が期待されますが、行政側特に地方自治体としてはどんな心構えが必要でしょうか。

カセム  様々な分野でNPOが、自分たちの活動主旨や手段・スケジュールを説明することになります。NPOは根気よく説明をしなければならないし、また行政の担当者もそれを努力して理解しなければならない。両者の協力の下でより良い制度がうまれるのです。

 そして、その活動が本格化すると、行政は、民間企業よりも安く、そして信頼して公共事業をNPOに委託できるようになります。

 ここで気を付けなければならないのは、「金を出すから口を出す」という姿勢であってはならない。NPOと行政は互いに尊重し、議論し市民社会にとって何が最も大事かを決定しなければなりません。NPOは事業者でありながら、またその事業のサービス対象者でもあるわけです。その互いを尊重した話し合いの場作り、橋渡しが我々市民フォーラム21・NPOセンターの課題であると思っています。

 

社会システムに求められること

R  その他に社会システムに求められることは何でしょうか。

カセム  三つあります。まず必要となるのは中長期的な市民センターの基盤整備です。現在も行っている場所の提供の規模拡大や、NPOに関する情報を社会に循環させる情報システムが必要となります。次にやはりお金の問題があります。金融制度をNPOに向かせるために、NPOが一つの市場として認められる必要があります。そしてそこで有効に機能する新しい金融システムを今後、検討していきたい。そして最後に必要なのは人の育成です。市民社会に関わる人材育成です。この三つを慎重に構築していかなければなりません。

 私は長い間、活動のシステムは、行政や民間企業の仕組みに近づくことがプロフェッショナルになることだと考えていました。しかし近年、プロといわれている金融が破綻し、災害時には市民活動が大いに役に立ちました。ということは、行政や民間企業のシステムにはない、独自のシステムがNPOには、実はあるのではないかと思うようになりました。それがどんなものなのかはまだ分かりませんが、NPO活動の根幹である善意の心をあらわすシステムが何かあるはずです。それを探すことが、これからの大きな課題であると考えています。

モンテ・カセム

1947年スリランカ・コロンボ生まれ。72年に来日し、東大都市工学科修士、博士課程修了後国連地域開発センター(名古屋市)主任研究員を経て、立命館大学政策科学部教授として、「地域産業政策」「国際援助政策論」を専門科目とする。東海地域を中心に広く活動中。

NPO法(特定非営利活動促進法)

 NPO(Non Profit Organization))はアメリカの民間非営利法人の略称であり、民間ボランティア団体、市民団体等、非営利でかつ自主的な活動を行う民間の団体のことを指す。我が国の民法には、非営利かつ公益を目的とし、主務官庁の許可を得る公益法人や非営利の社団法人についての規定しかなく、広く公益も営利も目的としない法人については社会福祉法人、宗教法人、学校法人など、特定の目的を持った団体に法人格を与える特別法にのみ委ねられている。このような中で非営利団体はそれぞれの目的にあった特別法がない限り、任意団体としてしか活動できない。そのため、活動する上で必要な事務所の賃貸契約や銀行講座の開設なども団体名では契約できず、すべて個人名義で契約しなくてはならない、法人格がないために助成の申請等が行えない、などが問題点として指摘されていた。

 しかし、阪神淡路大震災や日本海重油流出事故で、民間ボランティア団体等の柔軟な対応が注目され、これらの市民団体に容易に法人格を取得させることを目的として、平成十年三月十九日の衆議院本会議において、NPO法案が全会一致で可決成立した。NPO法は、議員立法であり、審議過程では多くの市民団体が意見を述べたり、各地で議員を含めた討論が行われるなど、これまでとは全く異なる、市民参加による立法が実現した。

 NPO法によれば、十人以上の会員がいて、保健・医療・福祉、社会教育、まちづくり、文化・芸術・スポーツ、環境保全など十二分野の活動を行うことを目的とする非営利団体が、一定の書類を主たる事務所の所在地の都道府県知事に提出すれば、四ヶ月以内に法人格の承認または不承認が決まる。現行制度と比べれば、非営利団体が非常に容易に法人化できる、情報公開の義務づけにより活動の社会的責任が明らかになる、などのメリットがある。さらに、従来の法制度にはない「施行三年後の見直し規定」が付則に入っており、時代の変化に伴い法制度を見直し、改善できることとなっている。

 NPO法が成立したことにより、「市民参加」から「市民主体」へ、様々なまちづくり活動に対する真価が問われるのはこれからである。

参考文献:(財)ハウジングアンドコミュニティ財団「NPO教書」風土社、1997.12/雨宮孝子『NPO法成立の意義』/「住民と自治 1998.5月」自治体問題研究所編

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