海外視察報告 国際博覧会施設の活用とまちづくり/井澤知旦

はじめに

 本報告は、過去(1992年セビリア万博)、現在(1998年リスボン国際博)、未来(2000年ハノーバー国際博)の時間軸において、国際博覧会(万国博覧会)で整備された展示等諸施設が、博覧会終了後にどのような目標をもとに活用され、まちづくりに活かされていくのかを把握したものであり、それをベースに愛知瀬戸で開催される2005年日本国際博覧会について考えたい。

 すでにBIE(国際博覧会事務局)では、1994年6月に新しい国際博覧会のあり方に関する具体的対応の決議がなされ、その一つに「博覧会会場跡地及びインフラの開催後の再利用」や「環境問題に関する配慮」などを特に重視することが謳われている。

 これまでの博覧会は、日本(大阪)で開催された一般博「EXPO70」やカナダのバンクーバーで開催された特別博「交通博86」を見るまでもなく、仮設パビリオンが建設され、博覧会終了後は一部の記念碑的施設を除いて諸施設は撤去されるのが一般的であった。しかし、セビリア万博以降は、むしろ積極的に展示施設を恒久施設として活用する方向性が明確に打ち出されている。

三つの国際博覧会を通じて

明確な都市開発目標

 会場後利用開発にあたっては、各博覧会会場も明確な都市開発目標を持っている。セビリアではテクノポリス等の開発(310ha―博覧会会場は180ha)、リスボンではビジネスセンターとしての新都市開発(330ha―同60ha)、ハノーバーでは新産業開発(70ha―既存の見本市会場を加えた博覧会会場は160ha)が目標に掲げられている。セビリアもリスボンもEUの通貨統合を睨んだ経済力強化のための国家プロジェクトである。そのような目標があるだけに、積極的に交通等の都市基盤投資がなされ、交通アクセスは従前・従後とでは格段に良くなっている。

 いずれも博覧会会場の後利用に住宅開発を組み込んだものはない。リスボンでは会場外の新都市開発区域内に1万2千戸、ハノーバーでは会場隣接地で6千戸の住宅建設が行われる予定である。両都市では、当面は少戸数を建設して博覧会関係者の宿泊施設(EXPO村)として活用される。

積極的な展示施設の恒久利用と恒久施設の博覧会利用

【セビリア/出展者建設の展示館の譲渡による民間企業による恒久利用】

 セビリアでは当初の展示館の建設・撤去条件として、テクノポリスを実現するため、出展国内の先端技術産業の誘致ができるなら展示館の存続を認め、そうでなければ撤去を義務づけた。ただし、あくまで展示施設として建設されているので、恒久施設として利用するにあたっては、執務環境改善のために必要な窓の取り付けや設備の設置などの改修・増築工事を行わなければならない。

 出展国にとっては展示施設を取り壊すよりも、企業誘致して施設売買したほうが安上がりになることは言うまでもないが、進出企業も増改築工事費が伴うものの、安い施設購入費のため、新規建設に比べて格安で入手できるなど、双方にとってメリットのある方式を導入している。なお、土地はアンダルシア州の所有であり、譲渡の対象にはならない。

 当初は不況のため、思うように施設処分できなかったが、6年経過した1998年時点では、概ね区画の7割は活用の目処がつき、すでに五割が稼働中である。

【リスボン/協会・民間共同出資による恒久施設建設と博覧会開催中の展示利用】

 リスボンでは、テーマ館の全てが、各国の展示館も多くが、後利用できるように努力がなされている。セビリアと違って、恒久施設を博覧会の展示館として利用しており、仮設パビリオンのようなケバケバしさは少ない。各国政府展示館は18m×18mのモジュールで構成されており、このうち北館は見本市会場の前利用である。日本館が入っていた南館は仮設であるが、博覧会終了後分解し、別の場所で展示施設として再利用される。店舗等の仮設施設もハノーバー国際博に引き継ぐよう検討中であった。

 恒久施設の所有者は公的団体が多く、民間企業は少ない。施設の建設・利用の手法は次の通りである。博覧会主催者と恒久施設の所有者とで新会社を設立して、施設を整備する。博覧会開催中は博覧会主催者が主導権を握れるよう大株主となり、博覧会終了後は博覧会主催者の持ち株を恒久施設の所有者に売却する方式を導入している。博覧会の一時利用と恒久施設利用の調整をうまく行っている。ここでもおおむね七割の施設が再利用される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リスボン博の主要施設の博覧会前後利用

【ハノーバー/民間による恒久施設建設と博覧会協会への展示利用貸与】

 ハノーバーでは、博覧会を開催するにあたり住民投票が行われ(1992年)、賛成51:反対49の僅差で実施を決定した経緯がある。そのため、既存施設の見本市会場の活用、恒久利用できる展示施設の建設奨励、鉄道系インフラの整備による鉄道分担率の向上が謳われ、環境対策とコスト対策が前面に出てきている。そこで、ハノーバーの会場は既設の見本市会場と新規会場とで構成される。新規会場は基本的に恒久施設を建設し、それを博覧会主催者に展示館として貸与する方式がとられる予定である。セビリア万博でパビリオン然としたドイツ館の再利用がうまくいかなかった反省に立っている。

 新規会場の後利用は娯楽や教育等の新規産業の導入が目論まれている。現在、恒久施設所有者探しが行われ、35の展示館のうち20まで確保することができた。6割の達成率である。民間企業の誘致は、博覧会開催2年前でも残り四割は確定できない状況にある。民間企業誘致の難しさがここにある。

日本における展開を探る

 都市整備目標については、一つは新産業興しであろう。昭和の厄年(41〜42年)に繊維産業から自動車産業へと構造転換してうまく乗り越えた当地域も21世紀を乗り切る新産業が求められている。博覧会成果の継承を謳うならば、やはり「環境」をテーマにした研究開発と新産業興しが妥当であろうか。

 セビリアではテクノポリスと隣接して娯楽文化エリア(テーマパーク等)が設けられており、ハノーバーもエデュテーメント(教育娯楽)に力を入れようとしている。当地では「自然」「遊び」「学び」を組み入れた新しい娯楽文化の創造も新産業興しや新ライフスタイルの観点から求められるのではないか。

 恒久施設の展示利用率あるいは展示施設の後利用率は6〜7割がこれまでの国際博覧会の到達点である。これ以上の水準で利用を促進することが、新しい国際博覧会の成否をはかるメルクマールの一つになろう。しかし、ハノーバーの例を見るまでもなく、開催七年前の時点で事業主体を明確にすることは困難である。とくに民間企業は先行き不透明な経済情勢であるがゆえに難しく、リスボンのように公的機関が事業主体になることも想定されるが、日本では財政状況が非常に厳しい。

 こうなると、恒久施設の事業主体探しは直前までもつれ込む可能性がある。といって、セビリアのような展示施設然とした施設の後利用は無駄が生じる。そこで、恒久利用を前提とした構造体で、多様な用途に転換可能な新しいモジュールシステムを開発することが求められる。さらなる課題は住宅の博覧会利用である。従来の展示空間としては小さすぎる。発想を変えて、NPO・NGOの展示・交流空間として活用したり、滞在しながら研究発表や交流する(例えば、環境大学のような)新しい参加方式を導入できないであろうか。これからは地球市民参加の時代である。

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