視察レポート

Report

登録有形文化財となったノコギリ屋根工場-葛利毛織

 ものづくり県愛知では、産業にかかわる様々な建物が登録有形文化財となっており、ものづくりによって発展した愛知の姿を思い起こさせてくれる。その一助となるものとして、愛知登文会(登録文化財の所有者の会)が一昨年作成したのが「あいちのたてもの ものづくり編」(A5版、60頁の冊子)だ。わかりやすい解説文と魅力的な写真で好評をいただいているが、その際に残念に思っていたのが、愛知のものづくりの特徴ある風景を形成しているノコギリ屋根工場で登録文化財になっているものがなく、コラムという形でしかとりあげることができなかったことである。

 ノコギリ屋根工場を有する葛利毛織がこの3月に登録有形文化財として答申されたことは非常に喜ばしく、愛知登文会の役員の方と一緒に訪問し、見学をさせていただいた。

 場所は名鉄尾西線の終着「玉ノ井」駅から徒歩2分。4スパンのノコギリ屋根をもつ工場が現役で稼働している。昭和7年頃北側2スパンの工場が作られ、昭和20~30年代に増築。今は倉庫として使われているが、男子寮や旧浴場及び便所が隣接して立地しており、住み込みで働いていた時代の様相を伝えている。そのほか、事務所、原糸倉庫、倉庫、土蔵、主屋、離れが同一敷地内に立地しており、職住一体の経営形態の様相が今も受け継がれている。

 ここでは、連続ドラマ「官僚たちの夏」や映画「海賊と呼ばれた男」のロケにも使用されたという。 

 建築的にも興味深いが、特筆すべき点は、この葛利毛織は大正元年に創業。100年以上の歴史を持つ高級オーダースーツブランドで、ポールスミスをはじめアクアスキュータム、バーバリー、等々の著名海外ブランドへも素材提供しており、天皇や多くの芸能人にも愛用されていることである。武蔵美卒の若者がぜひ働きたいと志願し、意欲的に働いている。愛知のものづくりを受け継ぐ企業としても注目したい。

奥が工場、左が事務所、右が主屋
奥が工場、左が事務所、右が主屋
西側道路から。手前が原糸倉庫、その奥にノコギリ屋根工場が見える
西側道路から。手前が原糸倉庫、その奥にノコギリ屋根工場が見える
工場内部。窓は北側を向いている
工場内部。窓は北側を向いている
ノコギリ屋根が4スパン分ある
ノコギリ屋根が4スパン分ある
現在も稼働している昔ながらの機械
現在も稼働している昔ながらの機械
(2020.8.3/石田富男)

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