住まいまちづくりコラム

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未熟とプロフェッショナル -ジャニーズ・宝塚の日本と韓流ドラマ・K-POPの韓国-

 

【“未熟さ”ゆえの事件なのか】

BBCの長編ドキュメンタリーが20233月に放送されて、暗黙事実から顕在化したジャニー喜多川によるジャニーズメンバーへの性加害問題、そして宝塚歌劇団の劇団員がいじめにより20239月に飛び降り自殺した事件が社会をにぎわせた。それより1年前の20225月に「『未熟さ』の系譜 宝塚からジャニーズまで」(周東美材)が新潮社から発売されている。その著書のもとになった論文は、事件の9年も前の2014年に発表されている。これは偶然なのか、必然なのか?あるいは予言なのか?

 

【未熟さビジネスの登場】

 周東美材は「『未熟さ』に特徴付けられたポピュラー音楽が日常の一部となり、それどころか国民的な広がりをもって支持されることさえある社会というのは、世界のなかでもほとんど類例がない」とし、さらに「ジャニーズや宝塚は日本では自明な存在であっても、いざ外国語に翻訳しようとすると、そのイメージや存在理由を正確に伝えるのはなかなか困難だ」と指摘している。つまり、「未熟さ」を売りにする文化は日本独自のものなのであり、それは世界に通用するものではないとの指摘である。著者は社会学者なので、なぜ「未熟さ」が社会で受け入れられているのかの背景と要因を分析しているが、そこから発生した冒頭の社会問題までは言及していない。

 

【未熟さ文化を受容する背景】

彼の分析によれば、大正以降の近代家族の形成と子どもを中心とした一家団欒の成立が背景にある。そのうえで音楽のような新しいメディアが登場すると、その変容を真っ先に受け止めるのは子ども達であり、そこから親世代に広がっていくので、これを“異文化受容の緩衝装置”と呼んでいる。そこにうまくはまった芸能が宝塚であり、ジャニーズなのだ。

宝塚も15歳から18歳までの女子が入学でき、「清く正しく美しく」をモットーに研鑚して、タカラジェンヌになっていく。客層の多くは女学生であり、そして家族へと拡大してくのである。戦後の高度経済成長期に4人組のジャニーズが登場する。アマチュアを売りにする4人組をファンが支える構造を作り上げていった。未熟さの系譜は、男子ではジャニーズの各グループや女子ではおニャン子クラブからAKB48や乃木坂46など、次から次へと輩出している。

 

【未熟さの社会問題】

 「未熟さ」をもったタレントをファンとして、すなわち同年代は「仲間」対象として、親世代は「育成」対象として支えていく。また多くのメンバーがいるなかで、グループとして、そして一人のタレントを推しとして支えていく。この構図がジャニーズや宝塚で一般化する。

この問題の一つは、未熟なメンバーが大人たちの指導の下で活動していくことになるのだが、その指導がブラックボックス化すると、性加害問題やいじめが陰で発生する可能性が高くなる。子どもたちはそれに刃向かう術がないのだ。子どもたちの教育とビジネスのプロセスでは、社会問題防止のための第三者的チェックが求められるのではないか。

 

【未熟さのビジネス問題】

もう一つは、未熟さビジネスは日本固有のものなので、一部では支持されるかもしれないが、世界に売って出ようとしても限界がある。それと真反対なのが韓国である。韓国のエンターテーメント(映画、ドラマ、ポップス、ウェッブトーンなど)は国内から海外、そして世界へと、ネットや配信ビジネスが興隆するに合わせて拡大していった。これは1997年のアジア通貨危機以降、国を挙げてコンテンツビジネスを世界に売り出す政策を掲げ、推進しているからだ。俳優にしても、歌手にしても、またいかに幼くても、プロフェッショナルとしての技を見せ、韓流ドラマやK-POPの分野を世界のなかで確立していったのである(これについては別稿で述べる)。

AKBでシングルのセンターを張っていた宮脇咲良が、韓国のオーディション番組に参加した際、韓国の練習生との歌とダンスのレベルの違いを痛感しているし、ガールズグループのコンセプトもAKBと真逆で「カッコよく強い女性」なのだ(週刊文春2024.5.16号)。

人気アイドルを主役にすれば視聴率が取れるだろう、踊りや歌が下手でも、かわいいアイドルグループなら売れるだろう、では韓国の世界進出戦略と伍していこうとしても太刀打ちできないであろう。

 

 

 

 【参考文献等】

 

周東美材<2022.5>「『未熟さ』の系譜 宝塚からジャニーズまで」新潮社

春木育美<2020.8>「韓国社会の現在」中央公論新社


黄仙惠<2023.1>「韓国コンテンツのグローバル戦略」星海社


康熙奉<2022.12>「韓国ドラマ! 推しが見つかる究極100本」星海社

 

 

(2024.6.4/井澤知旦)

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