住まいまちづくりコラム

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韓流ドラマが売れる仕組み-世界戦略の重要性

 

 韓流ドラマが世界を席巻している。そして私もはまっている。

 日本では韓流ブームの走りが「冬のソナタ」(2003年)であり、NHKBS放送が始まって一気に中年女性の心を鷲づかみにした。長髪で眼鏡とマフラーをしていると、誰もがペ・ヨンジュンに扮することができたのである。これを第一ブームとして今や第四ブームまでになっている。これは日本だけのブームでなく、世界でのブームになっているのだ。なぜそうなっていったのか。

 

【通貨危機を脱するための文化産業】

 前稿でも指摘したが、1997年に韓国は通貨危機に見舞われ、一時はIMF(国際通貨基金)の管理下に置かれ、財閥が解体され、市場が開放されていった。この危機に立ち向かったのが当選したての金大中大統領であり、そこでは情報革命の推進と文化産業の育成を柱に掲げていた。特に後者では「文化産業発展5ヶ年計画」や「文化産業ビジョン21」を策定し、文化分野の選択と集中を図る中で、映画や音楽などの分野を明確にしていった。それは国内市場にとどめず、海外市場の開拓し、国家基幹産業として位置付けていった。今では韓国コンテンツ(放送や映画,出版,音楽,ゲームといった11のコンテンツ産業)の輸出額(2021年)は119.2億ドル(当時1$137円として1.63兆円)に上っている。

 

【多チャンネル化によるドラマ質の向上】

 韓国では戦後、地上波テレビ局は3チャンネルであったが、2011年以降は新聞社系の総合編成チャンネル(ケーブルテレビ)が4チャンネル、CJ系の民間ケーブルテレビ1チャンネルの5チャンネルも増えて多チャンネル化が進んでいった。ドラマ作りに閉塞感があった地上波テレビ局のプロデューサーたちは、新規の総合編成チャンネル会社に移籍し、新しいドラマ作りにチャレンジしていったのである。ドラマ数が格段に増えていくが、そこには当たり外れがある。脚本と演技(俳優と監督)に加え、視聴者の批評といったトライアングル構造こそがドラマの質を高めていくのであろう。そして、2016年に世界に配信するストリーミングサービス会社Netflixが登場し、オリジナル作品の制作が始まることで、一層ドラマの質を高めていったのである。

 

【人材育成の仕組み】

 いいドラマを作成するにはいい人材が欠かせない。いなければ育てていく必要がある。そこで国は映画産業の専門人材(映画製作、監督、撮影など)の育成を目指し、特殊法人である韓国映画アカデミーを1984年に設立した。2020年にアカデミー賞4部門を受賞したポン・ジュノ監督もここ出身である。

大学教育でも演劇や映画の人材育成に力を入れている。韓国は知ってのとおり学歴社会であり、ピークの大学進学率178%(2009年)であり、直近でも70%(2018年)と高く、日本より10ポイント以上の差がある。大学校191校、専門大学137校、合計328校のなかで、演劇映画学科があるものは、前者で111校、後者で58校、合計169校もある。4年制の大学校では6割弱の設置率となる(いずれも2019年)。1990年代後半から急増していった。よって、俳優の学歴を見ると、多くは大学校を卒業している。それだけしっかりと基礎を学んで撮影現場に出てきているのである。

 

【脚本とウェッブトゥーン】

 ドラマの良し悪しは脚本に負うところが大きい。しかし、脚本家は制作会社に属さず、基本的にフリーランスとして活動する。これまでは大御所の脚本家に師事して腕を磨き、チャンスを狙ってデビューすることが多かった。しかし、最近は縦読みウェッブ漫画(ウェッブトゥーン)がヒットを飛ばし、それをもとに実写化しているドラマの事例が増えている。これは脚本家(原作)とウェッブ作画家がタイアップし、作品を世の中に送り出し、読者の反応が良ければドラマ化されるという流れが出来てきた。その代表作は「ムービング」(2022)、「梨泰院クラス」(2020)、「キングダム」(2019)、「キム秘書はいったい、なぜ?」(2018)、「ミセン-未生」(2014)などがある。しかし、脚本家の生活は不安定であるので、女性が圧倒的に多いそうだ。それゆえ「ストーリーに生活感があり、心理描写が巧みで、セリフにリアリティがある」2ようになる。なお、ウェッブトゥーンがあれば、ドラマ化の絵コンテがあるようなものだから、制作しやすいのかもしれない。

 

【社会問題の宝庫と韓国ドラマ】

 韓国は先端性という光の部分と底辺という陰の部分の対比が著しい社会ではないだろうか?少子化や失業、貧困、格差、ジェンダーなどの現代の社会問題の宝庫である。それをテーマにしたドラマや映画を主観的に上げるなら下記のとおりである。なお、ベースに愛憎を置いたドラマは時代劇から現代劇まで数えきれないほどある。そのなかで「ミセン-未生」はその要素を排除したドラマとして有名になった。

■教育問題-SKYキャッスル〜上流階級の妻たち〜

■いじめ問題-ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜

■女性の生きづらさ-82年生まれ キム・ジョン(小説の映画化)

■財閥と格差-花様年華〜君といた季節〜(映画では「パラサイト 半地下の家族」が有名)

■学歴社会-ミセン(未生)

 

【演技のうまい層の厚い俳優陣】

演技がうまいとドラマに感情移入できる。韓国の俳優は泣くのがうまい。特に女優はそうである。うるうるとした涙目、片目から一筋の涙、両目からの一筋ずつの涙、両目から溢れ続ける涙、という4段階があり、それに表情と動作を加えれば多様な泣き方ができる。

また顔の表情だけで演技ができる。ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の第8話で、主人公ウ・ヨンウは、弁護士である母親(女優チン・ギョン)が、幼くして分かれた自分の実の娘とは知らずに自分の弁護士事務所に引き抜こうとするが、実の娘であることを打ち明けられた時の4分間の表情の変化が感動ものである。その間はセリフはなく、表情だけの演技なのだ。

 さらには名わき役陣の層の厚さがすごい。名わき役がいてこそ主人公が一層際立つのである。演技がうまいと、いろいろなドラマに引っ張りだこになるので、何度も見かける。ドラマによって悪人にも善人にもなれるのだが、だんだん役が似たようになっていき、この登場人物が出てきたら、最初は善人のように振舞うが、後半になると悪人の本性が出てくるぞと予測できる。そして、「ああやっぱりな」となる。

 

【製作費は日本の34倍】

 ドラマまで、財閥家の登場はよくあるが、オフィスのつくりや住まいは豪華絢爛で、特に食事風景は何種類もの料理がテーブルを飾るし、葬儀のシーンでは花輪や提灯がこれでもかというくらい並ぶ。リアリティを打ち出すために製作費のかけ方が違うのである。

日本では1クール13話で2億円、韓国では1シーズン16話から20話で78億円とされ、3倍近い差がある。この違いは、日本はスポンサー収入を充てるのに対し、韓国は海外販売の版権収入を充てている。もちろん韓国でもスポンサー収入はあるが、ドラマ中のCMは禁止されているため、ドラマ中に商品を登場させてアピールする手法(PPL)が取られている。自動車でエンブレムが隠されている車とそうでない車の違いはPPLかどうかなのであろう。3ちなみに、現在Netflixで人気上位にランキングされている日本の制作「地面師」があるが、これは11億円をかけていると言われている。

最近はドラマ制作が高騰し、俳優の出演料が制作費を圧迫している。よって、脚本は韓国の作家で、俳優は日本の俳優を使う動きが出てきているようだ4。「イカゲーム」で大ヒットした俳優イ・ジョンジュのシーズン23の出演料は1100万ドルと言われているので、日本とは桁違いである。

 世界に売れるドラマを制作して、いい俳優を使い、いいセットを設け、いいロケ地で撮影し、版権収入を得るという良循環が、ドラマの質を高めているのである。演技力がなくても人気がある若手未熟タレントを使う日本では、海外では売れない。

 

【韓国ラブロマンスの定石】

 現代のラブロマンスドラマには定石がある。

  • 身長180cm以上のイケメンが出演する。韓国男優は高身長なのだ。
  • 階層的格差のある男女がその壁を乗り越えていく恋愛エネルギーに感動させる。
  • 偶然や奇跡がこれでもかというくらい重なっていく。
  • 主人公の男女は必ず涙を流す。
  • シーズン1(通常16話)のうち2度は別れるシーンが挿入される。

定石があるから安心して見られるのかもしれない。水戸黄門や暴れん坊将軍のように。

 

 こうしてみると、韓国はコンテンツ産業の育成は国家戦略としてうまく機能してきた。さらに脚本(ストーリー)の良さ、俳優陣の演技力の確かさと層の厚さ、監督の構成力と指導力のすごさ、聴衆の批評力の高さというトライアングル構造が韓国ドラマの質を高めているようだ。また、世界を狙うために世界受けする要素を入れるというよりも、韓国文化を取り入れ世界に発信した結果が受け入れられているように見える。日本にも優秀なる脚本家、監督、俳優がいるが、いかんせん層が薄い。また未熟さを売りにしたタレントでは世界に通用しないのだ。

と書いてきたが、ただし韓国礼賛ではない。光が強烈であればあるほど、影も深まるであろうが、別稿で取り上げればと考えている。

 

 

【注釈】

1 韓国では4年制の大学校と23年制の専門大学があり、その合計に進学率がこの数値である。専門大学の学生割合は3割あり、4年制大学校だけの進学率は50%前後であり、日本の4年制大学進学率より少し下回っている。

2 参考文献2 P.10

3 参考文献等5

4 参考文献等6

 

【参考文献等】

1春木育美<2020.8>「韓国社会の現在」中央公論新社

2黄仙惠<2023.1>「韓国コンテンツのグローバル戦略」星海社

3康熙奉<2022.12>「韓国ドラマ! 推しが見つかる究極100本」星海社

4韓国ドラマ「進化」の歴史を探る4つのキーワードなぜ世界に通用するエンタメになれたのか  https://www.businessinsider.jp/post-221258 (2024.5.22閲覧)

5韓国ドラマの制作費の調達  https://terra860.com/2020/07/01/ppl/ (2024.5.23閲覧)

6ドラマ界でも「日韓交流」が進む…!?

https://news.yahoo.co.jp/articles/21beacf48a3a2e3e64bea399256d81046ec794ad2024.5.29閲覧)

 

※ラバダブ27で「未熟さとプロフェッショナル」で一部要約して記述している。紙面の制限を意識せずに、ここでは記述している。

 

(2024.8.20/井澤知旦)

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