海外視察報告

欧州・官民パートナーシップによる都心再生プロジェクト

村井亮治

 昨年9月23日、欧州での都市計画事情の調査のため、全国から集まったコンサル等、都市計画に携わる総勢15名が成田空港から旅立った。折りしも米国での同時多発テロからわずかに12日後のいつ報復攻撃が始まるのかという世界情勢が不安定な時期で、いつもの海外旅行とは違う緊張感を抱いての出発だった。
 今回は、英国と仏国の行政、政府系機関での官民パートナーシップによる都心再生事業等の調査が目的で、英国のロンドン、バーミンガム、カーディフと仏国のパリの2カ国4都市を回った。そのうちの2つの事例について簡単に紹介する。

ロンドン  『イングリッシュ・パートナーシップ』

 21世紀の幕開けを巨大なドームで華々しく迎えたロンドン。そのドームがあるグリニッジ・ミレニアム・ビレッジ(以下「GMV」)を訪れた。この開発の事業主体は「イングリッシュ・パートナーシップ(以下「EP」)」で、中央政府系の機関で、日本の都市基盤整備公団に近い組織である。EPは、都市再生、特にブラウン・フィールド(汚染された土地)の再生を目的に自治体と共同して土地取得、基盤整備等を行い、様々な支援策を用意して民間投資を呼び込む役割を果たしている。EPが取得する土地の資金は全て国の補助金で賄われ、安く土地を取得し基盤整備後、民間に高く売却する。その代金は、そのまま国へ返還される事から、補助金は借入金的な性質のものとなっている。また土地は、九九九年の定期借地権で売却されており、これは限りなく土地保有に近い権限を与える一方、官が地主として土地の管理に永久的に関与できる権限をもたせるために設定された。
 開発面積約119haの中にドームの他、1377戸の住宅、エコスーパー、エコパーク、ホテル、シネコン、学校、健康医療施設等が計画されている。交通は、ロンドン中心部から地下鉄が延伸し新駅が設置され、市街とを約15分で結んでいる。既に、150戸の住宅、スーパー、公園等が整備済みで2008年の完成を目標にしている。EPではこの他に国内で約15000haの土地を取得し、6箇所でミレニアム・ビレッジを計画している。
 現地を回っていると、今後の住宅計画地に隣接して昔ながらの工場が立地していた。担当者はその環境について、今後魅力ある住宅を供給する事でこの環境でも住宅へのニーズあると語った。その住宅のデザインも市内で見るそれとは異なり、EPが掲げている「革新」の表われなのかもしれない。今後の展開についても7つのミレニアムビレッジとは異なる革新的な新たな展開をしたいと語っていたが、事業やその手法の革新とともに、市民の住宅への意識をも変えてしまう事が可能なのだろうか。

ユニークなデザインのミレニアム・ビレッジ
の住宅棟 〜ロンドン〜



中庭を囲み計画されたミレニアム・ビレッジ
の住宅棟模型 〜ロンドン〜

パリ『SEMAPA(セマパ)』

 パリでは、「パリ整備経済混合企業体(SEMAPA)」による開発地を訪問。パリの都市計画は未利用地の開発を推進するため「ZAC(特定整備地区)」を指定し、そこを第三セクターである「SEM(混合経済公社)」が土地買収や基盤整備を受持つ等の公的な推進体制を敷いている。
 SEMAPAが行っている「トルビアック地区」は、パリ市東部のセーヌ川左岸で国鉄オーステルリッツ駅に近く、線路や鉄道施設、工場等が立地した低利用の約130haの地区で、パリ市内のZACでは最大規模を誇り、約5000戸の住宅、国立図書館、大学(パリ第7大学移転)、商業・業務施設等が計画されている。
 このSEMAPAは、土地取得、施設整備、譲渡まで行い、土地取得資金はパリ市が保証人となり民間金融機関から調達している。安く仕入れた土地を基盤整備をして、民間等へ高く売却している。
 土地取得の際の住民対応は行政側の役割で、仮に反対者がいても裁判に持ち込み、計画地がZACに指定されている事から行政側の主張が認められている。ただ、そこに至るまでには公聴会等で十分議論がされるが、それでも理解が得られない場合でも事業が遅れる事がないような仕組みが構築されている。
 計画では、敷地の多くを占める線路に人工地盤を築きその上に建物を建設する。建物は高さを抑えた計画で、これは、昔からのパリの街並みのスケール感を踏襲するとともに、パリ市北部の新凱旋門を有する超高層ビル郡「デファンス地区」のライバルとなる街をつくりたいという想いがあるようだ。
 既に、一部の住宅、業務施設とともに、世界有数の規模を誇るフランス国立図書館が開館している。この図書館の建築家は、建物の透明性を追及し壁面をガラスとしていたが、書庫への紫外線対策から木の内壁が付けられた他、書庫が四棟に分散してあり書籍の閲覧等には効率が悪いと、職員や利用者からの苦情が絶えない建物らしい。デザインと機能性をどう評価するか、議論が分かれる建築だが、この図書館や大学等により地区のイメージは大きく変わり、それにより住宅及び商業・業務床の処分及び入居が順調にきているという効果をもたらしている。

凱旋門から望む新凱旋門と「デファンス地区」
〜パリ〜


セーヌ川からみる「トルビアック地区」と
「フランス国立図書館」4棟それぞれが書庫となっている
 〜パリ〜

 GMVは「革新」をテーマに掲げ全く新しい街をつくりあげようとしている。一方SEMAPAは、旧い街並みのスケール感を踏襲した街づくりに取組んでいる。これら異なるテーマの二つの官民パートナーシップによる都心再生プロジェクトが最終段階にはどのような姿をみせるのか、今後に注目したい。

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