スペーシアレポート

地域のブロードバンド活用

藤澤徹

 2001年はブロードバンドの元年と呼ばれた年であった。
 ブロードバンドを簡単に整理すると、これまでの情報は電話回線を使い、いわば狭い帯域を通して、ゆっくりと運ばれてきた。それが、より広い帯域に変わり、たくさんの情報量が早く送られてくるのである。その伝達の手段が、ADSL、CATV、FTTH(光ファイバー)というわけである。それぞれの手段のスピードは全く違い、ADSL・CATVを高速インターネット、FTTHを超高速インターネットと定義して、総称してブロードバンドと現段階では呼んでいる。
総務省は2005年までに、三千万世帯が高速インターネットアクセス網に、そして一千万世帯が超高速インターネット網に常時接続可能な環境を整備するという、「全国ブロードバンド構想」を2001年秋にまとめた。
 ブロードバンド(以下BB)の利用世帯は、2002年度末には900万世帯を突破する見込みである。首都圏では超高速インターネットFTTHの運用も区によっては始まっており、気軽にカフェでそのスピードを体験できる空間も用意されている。
 東京へ出掛けたときに、いくつかのBBカフェを廻ってみた。実際に触ってみると、スピードも速く快適である。各ISP(インターネットサービスプロバイダ)は、BB用のコンテンツを用意しており、動画がオンデマンドで楽しめることができる。
 しかし、気になったことが一つある。それはコンテンツとして配信されているものは、映画の予告や、放送終了のドラマで、別段インターネットで見る必要がないものばかりなのである。言い換えれば、それらはテレビを通して見たほうが気軽だし、画像もきれいであろう。終了したドラマもビデオレンタルで借りてさえこればよいだけである。
現在のところは高速回線というものめずらしさが先行して、ユーザーが注目しているが、コンテンツがテレビや映画の延長線上にあるのものでは、いくら高速インターネットのインフラが整備されていっても、ユーザー側の魅力は薄れていくだろう。
 元来、インターネットはインタラクティブ性という部分で、テレビ媒体とはラインを引くことができた。ブロードバンドがでてきたからといって、ISPが安易に映画や、テレビ番組の配信を行うと、インターネットそのものの質を下げるだけで、ユーザーの関心も右肩下がりになるだろう。将来にむけて、インターネットのポシビリティーも低くなる恐れがある。    
それでは、BBは今後、どのように扱えば、より効果的なのものになるのであろうか。

 世田谷区の若い世代を中心に製作されているBBコンテンツ「俺最高@世田谷」というものがある。当コンテンツは世田谷NETという、商店街のサイトやNPOのサイトから成り立つコミュニティーサイトの中の、一コンテンツである。
 内容は、世田谷区在住の人間をインタビュー形式の動画で紹介していくという単純なものである。

 しかしながら、他とは違うところは、地域の情報を、表現豊かに、地域から発信しているということである。伝えたかったことをより詳しく伝えているのがこのコンテンツなのである。俺最高@世田谷にはこれから作られるであろう、BBコンテンツのヒントがいくつかメッセージングされている。
 これまで、個人がホームページをつくって細かく情報を起こすという作業は1ページ作ることでも大きな負担となっていた。
 BBインフラが整えば、動画でテキスト何万字にも及ぶ情報を、動画に変えて発信できるのである。
 地域の魅力を伝えることができるのは、その地域に住んでいる人たちである。私の知っているあの人を、私達の活動を発信したい。発想はこれまでのインターネット環境においてと同じであるが、BB環境はこれまでになかった表現力を与えてくれる。恐らく、衰退している商店街や産地でもBBは武器となるだろう。モノツクリの魅力を動画を通して知らしめ、温度をつたえることができるのは、地域から発信するBBコンテンツに違いない。
回線が太くなったといっても、本質を変える必要はない、むしろ表現技法が増えたぐらいの認識でいたならばどんな環境になろうと対応できる。大手の企業にはできないことが地域レベルでは今後ますます可能となるのである。

なごやネットの可能性

 前述ではBBの動きとその特徴について述べたが、今度はなごやネットでの展開とこれからの可能性について少し述べたい。
 一昨年、なごやネットは地域のコミュニティーサイトとしてスタートした。コンテンツは名古屋市内での日常の動きから、焼き物産地の動き、さらには物販も情報として発信してきた。名古屋のポータルとしてはまだまだ存在が薄いものの、それぞれのコンテンツは独自性を持っている。
 これまでのポータルサイトといえば、ある意味、リンクの量がそのサイトの情報量としてみられ、インターネット上での位置づけが決まっていた傾向がある。     
 今後、BBインフラが整備されてきたときは、恐らく、一つのコンテンツとしての情報量が、ユーザーの関心を高めるうえで重要な要素となってくるであろう。  
つまり、BBによって一つのコンテンツの重みが増す。さらに、オリジナリティーのあるコンテンツを生み出せるかどうかで、そのサイトの価値が決まってくるのである。
 地域コミュニティーサイトは、ますますディテールを知ることができるサイトでならなければならない。なごやネットは、これまでに地域を紹介してきた強みを活かして、今後さらに、商店街や各NPOと積極的に関わり、BBに対応したコンテンツを作っていくべきである。             
 各産地の職人や、商店街の魚屋さん・八百屋さんなど、特定の分野で知識と経験のある人は、遠隔地の小学校では、ブラウザを通して生き字引として活躍できるであろう。普段コミュニケーションがとれない寝たきりのお年寄り同士は、ブラウザに向かうことで、お互いを励ましあうことができるだろう。
 人と人との温度をより伝えやすくなるインターネット環境が整ったとき、地域の動きを伝える媒体が必ず必要となる。なごやネットはそこに活躍の場を見出さなければならない。BB対応の地域のコンテンツが充実し、発信ができるようになったとき、なごやネットがディテールのポータルサイトとして位づけられる可能性は充分ある。

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