スペーシアレポート

「やさしさ軸」の提案 人にやさしい街づくり研究会の活動

浅野 健

 人にやさしい街づくり研究会

 愛知県では、1994年に「人にやさしい街づくりの推進に関する条例」ができ、その担い手をつくるため連続講座が毎年開かれている。人にやさしい街づくり研究会(以下、研究会)とは1996年の講座受講生を中心に、車いすを使用する人たちなどを含んで結成したグループである(総勢32名)。
 「人にやさしい建物や街はどうしたらつくれるだろう?」これが研究会の出発点である。このテーマについてこれまで多くの調査・研究事例があるが、そのほとんどが段差や通路の幅などハード面をテーマとしている。しかし、ハードの問題点が解消されてバリアフリーが実現されても、健常者と障害者が区分されたりよそよそしさがあったりして、再度利用したいという建物になっていない場合が多く、そこには人に「心地よさ」を与える質的なポイントが欠けていると考えた。心地よさ、快適さには個人差があり、データ化することはほとんど不可能とされてきたが、やさしい建物を探しながらある程度の目安があることがわかってきた。研究会ではこれを「やさしさ軸」と名付けた。

やさしさ軸とは

 今回の調査では、寸法を図ってデータ整理をすることはせず、心地よさ、快適さについて調査項目を設定する方法をとった。また、公共施設と違って自治体のコントロールが難しい、病院、店舗といった日常よく利用する施設や、文化施設、娯楽施設などレクリェーション施設など行きたい施設、楽しみたい施設も調査しようと考え、建築賞、都市景観賞など顕彰施設212を対象とした。
 一次調査(1998年8月〜12月)ではグループに分かれて212施設全てを点検し、施設の用途ごとに15件に絞り込んで二次調査(実地調査・1999年1月〜4月、施設担当者へのヒアリング・2000年2月〜5月)を行った。また、二次調査と並行して、やさしさイメージ調査(1999年1月〜8月)も行った。高校生以下から70歳以上までの669名を対象に、「やさしさ」をイメージさせる言葉を選んでもらった。その結果、年齢に関係なく、「親しみやすい」「居心地のよい」などの言葉が多くなった。我々は上位20語を「やさしさ軸」と名付けた。

やさしい建物や施設とは

 今後の課題として、「やさしさ軸」を使って実際に施設を建築する際や施設を運営する際にどのように当てはめるか課題ではあるが、二年にわたる活動を通じ、以下の三点が必要であるとわかった。

一.施設をつくる側や運営する側に「やさしさ軸」、つまり「親しみやすい」「居心地のよい」などのキーワード、に配慮することが必要である。ただし、娯楽施設や文化施設など、施設そのもののイメージが強い施設では必ずしも「やさしさ軸」には当てはまらない場合がある。

二.ハード整備やシステムだけでなく心づかいが必要で、そのためには運営サイドの意識向上が必要である。

三.過度な障害者への配慮や、決められた場所や出入口でしか利用できないなど、まだまだ障害者の利用には制限があり、もっと自由に選択できる配慮が必要である。

 また、今回の調査で人にやさしい医療・福祉関連施設だけでなく、人にやさしいパチンコ屋、焼き肉屋、文化施設、公園などを発見できたことも成果であった。これらの施設には車いすでも楽しめるような工夫がされていたり、心地よく利用してもらおうとする運営側の配慮がされたりしていた。

建物や施設の設計段階から・・・

 二年間、この調査にそれぞれがパワーをかけすぎたこともあって研究会の活動は休止しているが、メンバーは県内の各地で活躍している。単純にハートビル法に準拠した建物でも高齢者や障害者にとってまだまだ使いにくい例が多く、バリアフリーの導入は視覚障害者にとって歩道と車道との段差が杖を使って認識できないなど危険が増えた、高齢者対応住宅のように一律引き戸の扉とするのは腕の力が弱い高齢者にとって不都合、などメンバーと議論することがよくある。しかし、まだまだ高齢者・障害者対応=バリアフリー、高齢者対応住宅=引き戸などと既成概念にとらわれすぎている人は多い。建築や街の設計段階から、いかに高齢者、車いす使用者、視覚障害者、聴覚障害者など様々な人を巻き込むか。そのための課題は多いが、完成してから使いにくいと指摘されて、そのたびに建物を改造するよりは、最初から一緒に考えた方が無駄が少ない。
 21世紀はこのことを声を大にして言っていい時代ではないだろうか。



シンポジウム当日の様子


人にやさしいパチンコ屋「大一パチンコ昭和橋通店


人にやさしいパチンコ屋「大一パチンコ昭和橋通店」の可動式の席

人にやさしい街づくり研究会の調査結果を取りまとめたレポートをお分けします。
本編が300円(40ページ弱)です。(資料編(134ページ)は完売いたしました。)
問い合わせ先:スペーシア内 人にやさしい街づくり研究会事務局 
担当:山内豊佳(E-mail:yamauchi@spacia.co.jp)

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