スペーシアレポート

海外視察報告 新しい時代を見据えた都市づくり〜ロンドン・ベルリンを視察して〜

加藤達志

 1999年11月7日から8日間、(財)名古屋都市センターが主催した海外視察セミナーに参加した。参加者は、名古屋市立大学経済研究所の所長である信國先生を始めとする総勢17名であった。今回のセミナーは、イギリスにおけるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ=民間主導の公共事業)の実情を学ぶこと、およびロンドン、マンチェスター、ベルリンの都市づくりの視察が目的であった。PFIに関しては、基本的な話が中心であり、日本でも既に様々な書籍等で紹介されている部分が多かったことから、ここではロンドンのミレニアム・プロジェクトおよびベルリンの首都建設についてコメントする。

ロンドン

ロンドンの中心部から東へ車で20分強のところに、巨大なドームの姿が現れる。その名は「ミレニアム・ドーム」。最近よく耳にするミレニアムとは英語で千年紀を示し、キリスト生誕からちょうど2,000年となる今年が祝祭の年となる。官民が協力して行われる「ミレニアム・エクスペリエンス」と呼ばれる博覧会の主会場がこのドームである。広さはナゴヤドームの約2倍、天井から突き出た12本の黄色の鉄塔が印象的である(工事中のクレーンのようにも見えるが…)。今回、その概要をお聞きするため、政府の機関である「イングリッシュ・パートナーシップ組織事務所」を訪れた。
 ドームが建つテムズ川沿いのグリニッジ地域は、子午線が通る世界標準時で知られるまちである。また、当地区はかつて石炭を荷揚げする工場などで20世紀前半までは栄えたが、それ以降は急速にさびれ、廃墟と化したまちでもある。ドーム建設を中心とした周辺の計画は、グリニッジ地域の再開発により、まちを再生することが大きな目的であった。これまで交通網の整備が遅れていた当地域であるが、ロンドン中心部からの地下鉄の延伸と新駅の設置、電動バスレーンの整備、水上アクセスのためのターミナル整備など、本当に間に合うのか心配になるほど急ピッチで工事が進められている。
 ドームからほど近いところには、「ミレニアム・ビレッジ」というひとつのまちが形成される計画があり、来年末にも着工予定だそうだ。そのまちでは、新しく整備される電動バスや地下鉄による移動を中心とし、駐車場の台数を制限するほか、一般市民もウォーターフロントに住めるような新しいまちづくりを、政府が村づくりの希望者を募り、複合企業体で実施するとい
う。
 しかし、どこの国でも大規模プロジェクトには住民の反対はつきものである。イギリスでも物議を醸し出しているようで、ドームの建設はお金の無駄づかいという反対意見が多いようだ。また先日の新聞では、チャールズ皇太子が「私はドームには行かない」と言って、世間を賑わせたそうだ。 


建設中のミレニアム・ドーム


ベルリン

 ベルリンの壁が崩壊して早10年。今ではどこにそんなものがあったのかと思うほどまちが様変わりしている。壁が崩壊した翌年、ドイツが統合し、首都ベルリンの建設が始まった。今まさにまちは建設ラッシュである。特にその目玉になっているのが、市中心部のポツダム広場周辺である。首都建設を一目見ようと、ドイツ国内のみならず世界中から人が集まるようで、ポツダム広場の脇にある情報案内拠点の「インフォ・ボックス」には平日にもかかわらず多くの人で賑わっていた。そこでは、ドイツの歴史を踏まえ、ベルリンの首都建設の説明・展示や物販を行っており、またその屋上に上がれば、建設ラッシュの様相を一望することができる。
 なかでも、民間資本による大規模街区の整備が進んでいるのが、ベンツで有名な「ダイムラー・クライスラー」と「ソニー」が事業主体となっている地区である。ダイムラーの街区は、敷地面積68,000u、延べ床面積550,000u(グロス)、既にショッピングセンターやホテルなどはオープンしている。日本の著名な建築家である磯崎新氏もオフィス棟の設計に携わった。またソニーの街区は、敷地面積27,000u、延べ床面積133,000u(グロス)、富士山をモチーフした外観は、建築中の様相からもすぐに目にすることができる。どちらもひとつの企業が実施するにはあまりにも大きい開発である。
 もちろん建設時における環境への配慮も忘れていない。市内への自動車交通を減らすため、駐車場を減らすとともに路面電車等の拡充を図り、公共交通の利用率を80%にすることが目標だそうだ。また、街中を張り巡っている太さ約30p程度の鉄のパイプラインは、建設中に出た地下水を市内で循環させ、地盤沈下を防ぐ役割を果たしている。建設ラッシュが進むその一方で、ポツダム広場のすぐ近くには、約200ヘクタールの大規模な公園(というより森)であるティアーガルテンがあり、訪れる人の心を和ませてくれるのも欧州の都市らしい。

 ロンドンにせよベルリンにせよ、大規模開発には賛否両論があると思うが、郊外ではなく都心部(あるいはその外縁部)に新しい時代を見据えた都市づくりが進んでいることは確かである。「成長都市から成熟都市へ」とは日本でも良く耳にする言葉であるが、既に成熟期を迎えている欧州の各都市のまちづくりは今後日本にも大きな影響を及ぼしそうだ。


着々と進むベルリンの首都建設

紅葉が美しいティアーガルテンの森

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