COLUM なるほどマクドナルド 海外編

文・写真/井澤知旦

 仕事柄、海外調査に出かける機会が多い。その際の都市共通観察対象として、第1にオープンカフェ、第2に百貨店、第3にマクドナルドの三つがある。
 第1のオープンカフェは、豊かな屋外空間の活用の仕方、にぎわい景観の創出方法を学ぶためであり、名古屋への導入の参考にしようというもの。第2の百貨店は、その国、その都市の物的豊かさ、物価水準、流行を見る上でコンパクトにまとまった場所であるから。
 さて、第3のマクドナルド(以下、マック)は、世界のあらゆる都市に進出しているので、諸都市の景観行政(言い換えれば景観に対する市民の価値観)の水準を見る絶好のバロメーターとなるからである。また、マック側も非常に柔軟に対応していることも見て取れる。
 マックの一般的なデザインは目立つ赤帯の上に黄色い「M」と白い「McDonald's」のロゴである。ヨーロッパの諸都市は歴史的な景観を有しており、マック側がまちなみ景観に違和感なく立地しようとしているのか、行政的な景観規制を受け止めるのかして(おそらく後者であろう)、標準的なマックの店舗デザインを見ることは難しい。
 パリ・シャンゼリゼ通、コペンハーゲンのストロイエ通、ベルリンのダウンタウンのマックは赤帯でなく黒帯の上にロゴが書かれている。ミラノのガレリアにあるマックは赤色を一切使わず、銀色の「M」も使用しながら、周辺から浮き立つことなくシックな感じでまとめている。ツェレのような町全体が歴史的建造物で成り立っている街では、白の「McDonald's」の文字があるのみであった。
 目立つ赤色の取り扱いに工夫している例もある。ストックホルムやウィーンで見たマックは、昼間はネオンサインを消しており、店舗も落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、夜間になると赤が際だち、昼と夜のこの変化が違和感なく受け入れられる。
 昨年(1999年)にブダペストへ行く機会があった。たまたまガイドブックを見ていると、西駅に「世界一美しいマクドナルドがあることで有名」という文字が目に飛び込んできた。駅舎と一体となったデザインで(因みにこの駅舎はエッフェル塔を設計した会社が3年かけて建設したそうな)、レンガ化粧が施され、おそらく以前は駅関連のオフィスなどに利用されていたのであろう。内部は天井が高く、そのため天井から吊す照明はシャンデリア風となり、床からの照明燈もあって、明るく落ち着いた雰囲気がある。中地下にカウンターがあり、中2階と1階が飲食空間になっている。通常のマック仕様では空間に負けてしまうので、そのような質にせざるを得なかったのであろう。
 このようなキャッチフレーズで観光名所になるのなら、日本でこそ「世界一美しいマクドナルド」を作るべきではないか。
 これまでの視察成果をまとめると次の通り。
  「マクドナルドは景観行政のリトマス紙。甘くなるほど赤くなる。」
  「この意見に賛成ですか?」
  「賛成(酸性)です。」

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