視察レポート
Report
シェアリングシティ ソウル
昨年12月に2泊3日でシェアリングシティの世界的先進都市といわれるソウル特別市を視察した(名古屋商工会議所都市再開発研究会主催)。最近はシェアリングエコノミーという言葉が流布しているが、これは個人等の持っている資産を共有することで社会問題を解決するとともに、生活を豊かにすることを指し、とくにネットを社会基盤として活用することを特徴としている。
ソウル市は1千万人の人口を抱える大都市であるが、様々な都市問題を抱えており、その一つの対策がシェアリングシティである。2012年9月にソウル市長(現在も市長で初めての三選)が「シェアリングシティ・ソウル推進計画」を策定し、その実現にむけてソーシャル・イノベーション局の設置、「ソウル特別市共有促進条例」の制定を図った。市が主導するシェアリング事業を展開している。
具体的なシエアリングシティの取り組み事業は次の通りである。
①自転車シェアリング
ソウル特別市直営で2015年2,000台からスタートし、現在は1,300ステーション、2万台の自転車、60万人の利用がなされている。
②カーシェアリング
二つの運営会社(市との共同事業)と市直営の3社がある。民間運営会社とは、市が駐車を割安で貸すことで共同事業を行っている。値段は通常の50%引きで提供している。1,115か所の駐輪場を持ち11,700台を運用している。利用者は当初の13万人(2013年)から420万人(2015年)に増加した。
③ハウスシェアリング
一人暮らしの高齢者の住宅の余った部屋を大学生や若手社会人に貸し出すことで住宅問題を解決しようとするものである。貸し手はリノベノーションの補助金を得ることができる。現在は224人の大学生が146戸の住宅に高齢者とともに暮らしている。
④箪笥シェアリング
スーツは必要だがそれを持てないほどお金がない就活人のために、公益団体が運営している。衣装を貸したり売ったりするが、芸能人の衣装寄付があるらしい。
⑤公共施設シェアリング
1076の施設で実施され、無料あるいは会議室では100円/時間の格安で開放している。予約はすべてインターネットを通じて行われる。
⑥工具シェアリング
値段の高い工具をシェアリングしている。25の区役所の70%で設置され、全市的に約500ヶ所で運営されている。市民に利用してもらうことが重要であり、2年に1度、このテーマでエキスポや会議、フェスティバルが実施されている。
⑦屋上スエアリング
1970年9月20日から10月28日の約5週間、公共建築物の屋上を開放した。9グループ、46イベントが実施され、85%の参加者が満足と答えている。
2018年度に入ってからの新規事業に次のものがある。
⑧駐車場シェアリング
ソウル特別市は車庫証明なしで自動車の購入ができるため、違法駐車に対し年間300万件の苦情が寄せられる。そこで市は住宅地を対象に、12万ヶ所(月4千円弱)の駐車スペースを確保して、その問題に対応するものである。
⑨学校シェアリング
学校の体育館や芝生広場などを使途運営企業との共同で市民に開放するものである。使用料とる。年間200~300万円の利益を得るため、安全管理人を派遣することができる。
そのほか、シェアリング情報を共有するプラットフォーム「シェアリングハブ」を設置することやシェアリングフェスティバル、才能をシェアするTEDなどにも取り組んでおり、また新たなシェアリング事業を模索中である。
シェアリングシティを実現するには市民の理解と行動が求められる。行政だけが一人踊りしても、市民が参加していかなければ効果は生まれない。市民にとってお得感があって、それを拡大することで暮らしがよくなるように、地道に、着実に取り組んでいくテーマのように思える。ここでは触れなかったが、マンション団地の共用空間を学習空間や料理教室、裁縫セミナーに開放(地域で共有する)する取り組みがある。改造に区からの補助がある。開放することで、マンション住民と地域住民とのコミュニケーションが取れ、住みやすい団地・地域になり、ひいてはマンションの資産価値の向上にもつながるとの認識があるようだ。
このようなメリットが具体的であれば共有プロジェクトも促進される。