現在の位置:TOP>まちのトピックス>すまいまちづくりコラム>京町家の再生、保存の取組み WWW を検索 スペーシアサイト を検索

 
 

京町家の再生、保存の取組み

 先日、業務の都合で京都を訪れ、同行させてもらった企業が取得し、改修、保存活用している京町家の見学の機会を得た。
  建物は、築150 年の北棟と築110 年の南棟からなり、呉服屋として使用され、北棟の一部で昭和後期に改装がされたが、取得した企業が文献等から明治・大正期の造作を残しつつ、できる限りそれ以前の姿へ復元し再現した。今後、宿泊事業も可能にするために、京都市歴史的建造物の保存及び活用に関する条例(建築基準法の適用除外を行うもの)を活用して必要な設備改修もしている。建物は、職住一体型の典型的な京町家の佇まいを伝える建築物として2005(H17)年に京都市指定有形文化財(建造物)の指定を受けている。
  主屋南棟は、通りからミセ、ゲンカン、ダイドコロ、オクの四室が連なり、それに平行するように土間(トオリニワ)が通っている。ミセは、普段は、企業のスタッフの事務執務室で管理人のような存在。ゲンカンには、反物の色合いを自然光でみられるよう天井の一部に明り取りの窓が備わる。建材、建具も当時のままで、現在では入手困難な高価な材料が使われ、建具の硝子は大正硝子で味わい深い旧い京町家の雰囲気を醸し出している。オクの部屋は、通りからも離れ静寂に包まれ、そこから見える庭園の緑や磨り硝子や障子からの自然光に包まれた空間に癒された。建具は6月から9月は蔵で保管されている夏の建具と入れ換えて使い、スタッフや興味のある大学生などがその作業を行うという。
  古民家などの歴史的建築物を個人が生活しながら保存するには細かな規制や経済的な負担が大きく難しいとされる中で、事業として取り組んでいるこの企業の地域社会への貢献は大きい。さらに、企業が取得した際に掛軸や屏風など蔵の所蔵品一式を地元大学に前所有者から寄贈されており、協働して継承していくための産学連携の覚書を締結し、資産に関する様々な調査・研究、活用方策について取組んでいる。
  今回は、資産の保全、管理が個人から企業へと継承された特殊なケースで、中には開発業者の手に渡りマンションにその姿を変えてしまう京町家も少なく無かったという(現在は条例により、京町家の解体は1年前に市へ届出て、保存継承に関する協議が求められている)。
  歴史的建築物が文化遺産等の評価を得ると観光資源として来場者から料金を徴収し保存費用に充てられるケースがあるが、入場料頼みの事業スキームでは景気や趣味嗜好の多様化に左右され長期安定した資金調達に不安が残る。今回のケースが多くの物件に当てはめられるものではないが、こうした取り組みが参考になり、全国の古民家再生のためにも事業として収支が合わせられる企業の参画、保存にかかる規制の緩和、使い勝手のよい助成金などの支援が充実されることに期待したい。
※現在は、祇園祭における屏風祭(7月14日〜16日)のみ一般公開を行っている。

「京都市京町家の保存及び継承に関する条例」 
http://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000228/228362/Leaflet.pdf


南棟外観


南棟ゲンカン


南棟オクからの庭園
(2018.6.18/村井亮治)