現在の位置:TOP>まちづくりを学ぼう>図書紹介>つながる図書館−コミュニティの核をめざす試み− WWW を検索 スペーシアサイト を検索

 

つながる図書館−コミュニティの核をめざす試み−/猪谷千香著
筑摩書房/2014年1月10日発行

 本書は、産経新聞の記者、ドワンゴでのニコニコ動画のニュース担当などの経歴を持つジャーナリストである猪谷千香氏の著書である。猪谷氏は、近年、公民連携によるまちづくりの好事例として度々メディアにも取り上げられる岩手県紫波町のオガールプロジェクトを題材にして2016年に発刊された「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」の著者でもある。そのあとがきの中で、本書「つながる図書館」を発行したことがきっかけで、全国の公共図書館を取材するようになり、図書館関係者の中で注目を集めつつあった紫波町を取材するようになったと紹介している。筆者が公共図書館を題材にするようになったきっかけの図書である。
 そもそも、なぜ猪谷氏が全国の公共図書館を取材しようと思うようになったのかは、本書のプロローグからその理由がうかがえる。赤ちゃんからお年寄りまで利用者の年齢を選ばす、職業や収入も選ばず、無料で使える稀有な公的施設であり、自分のまちの図書館しか知らない方は、ぜひ最前線の他の町の図書館へ出かけて現場を見て下さい。「人と本をつなぐだけでなく、人と人をつなぎ、コミュニティの中で新たな核を担っている図書館の姿が見られるはずだ」と。東京近郊の武蔵野プレイス、千代田図書館、飯能市立図書館から地方の小布施町まちとしょテラソ、鳥取県立図書館、武雄市立図書館、伊万里市民図書館などはその好例だ。さらに、「新しい公共図書館」として千葉県船橋市の船橋まるごと図書館プロジェクトや、島根県海士町の島まるごと図書館構想などを紹介している。他にも幾つかの事例を紹介しているが、それぞれの好事例の特徴については本書を参照いただきたい。
 私自身も全国の幾つかの図書館に足を運んだことはあるが、「本を貸出・返却・閲覧をするだけの場所」「静かに過ごさねばならない場所」といった従来のイメージからは確実に変化してきている感がある。ともすれば公共図書館は「無料の貸本屋」などと揶揄され、自治体の予算縮減の対象になりうるが、そこに関わる人々が知恵を絞って取り組むことで市民一人ひとりに知を提供できる場所、さらには人と本、人と人をつなぎ、コミュニティの核にもなりうる場所にもなることを本書で紹介された好事例が示していると思う。
 自分の町の図書館を見つめ直す良いきっかけになりうる著書だと思う。

(2017.2.1/浅野 健)