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ニュータウンは今−40年目の夢と現実/福原正弘著



東京新聞出版局/1998.8.21発行

 我が国最初のニュータウンである千里ニュータウンの開発計画が決定されて40年。千里、高蔵寺、多摩、港北、千葉の5つのニュータウンを比較しながら、その現状と課題を浮き彫りにしている。大学の研究室でのアンケート調査などがベースになっており、実証的なデータに裏付けられた記述には重みがある。これまで、ぼんやりとしかわかっていなかった課題の数々が明らかになった感じである。

 5つのニュータウンに共通する課題も多いが、それぞれ特徴がある。立地がよく生活環境がよい千里では、住民の評価が高く、定住意向が高いが、そのことが入居者の入れ替えを難しくし、高齢化がより一層進行している。これに対して、「都心への交通の便が名古屋の感覚ではよくない」高蔵寺では、賃貸住宅において年間10%程度の退出・転入が見られ、若返りが生じているという。評価が高いものが必ずしもよいとはいえないようだ。

 イギリスのニュータウンについても紹介されており、日本との比較も興味深い。日本のニュータウンが母都市への依存度がきわめて高いのに対して、イギリスのニュータウンでは立地条件としては同じでも母都市への通勤関係はきわめて薄いとし、その理由として、鉄道運賃体系の違い(イギリスでは通勤時の運賃が日中の倍近くに設定され、交通費が高くて通勤できない)と国民性(高学歴による立身出世を望まず、日々の家庭生活を享受する傾向が強い)があげられている。その結果、休日でもニュータウンですごす人が多く、これがニュータウンの活気に結びついているという。

 もともとは専門書として企画されたものを、一般向けにかなりの手直しがされたということで、わかりやすく書かれている。ニュータウンに住む人にとっても興味深く読めるのではないだろうか。新聞記事として取り上げられていたのも頷けるところである。

(1998.9.25/石田 富男)