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年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学/ 
 エンリコ・モレッティ著/株式会社プレジ デント社/2014年4月発行

 この名古屋を永住の地としてつい最近選んだ私にとって、この本のタイトルは大いに引っかかった。名古屋を選んだことは果たしてどうなのか。そんな疑問から手に取った本である。
 この本で主張していることは、難しくない。地域にとって、かつて経済の中心だった製造業に頼っていては衰退する一方であり、繁栄するには如何にITをはじめとするイノベーション産業を成長させるかにかかっているということだ。なぜ、イノベーション産業かというとその集積効果が圧倒的に高いからだ。ある場所にハイテク企業が立地すると、それを目指して高度な人材が集まる。さらに関連するサービス業も集まる。高度な人と企業が集まることで、知識の伝播が生まれ、さらなるイノベーションを創出し、次なるハイテク産業を呼び寄せ、また人材が集まり、・・・、とその好循環で地域の競争力はますます高まる。その結果、そこに暮らす人々の収入も増える、ということである。逆に言うと、イノベーションを生み出せない、従来の製造業に固執する地域はどんどん衰退し、収入は上がらないということである。昨今のグローバル化がその傾向により一層拍車をかけ、格差を広げている。
 ITが浸透したことで、どこで住み、どこで働いても同じだという議論があったが、著者が言うところは「人は互いに顔を合わせてコラボレーションするとき、もっとも創造性を発揮」するという。単純に言うと、人との出会いや交流を求める力が地域の経済力や都市の魅力の根源であるということだ。楽天の三木谷社長は月に1週間はシリコンバレーに住むという記事を読んだことがあるが、それもそこに集まる人を求めてことだろう。技術がいかに進歩したとしても、モノを考え出すのは人の頭、そして物事を動かすのは顔の見える人間同士の信頼関係だということだろう。グローバル化が進む中で、逆に顔の見えるローカル化がより一層重要になってくる時代なのだ。
 名古屋は、というか愛知はものづくりが盛んだ。この本を読むと将来が心配に
なってしまう。しかし人材が豊富な地域でもあると思う。力を合わせてイノベーションを生み出せば、当事者だけでなく、この地域に住む人全体の収入が上がるのだ。
「住むところ」は自分たちで作るもの。力を合わせて頑張ろうではないか。

(2014.10.3/櫻井高志)