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なぜ自己啓発本が多種大量に書店に並ぶのか?
(参考図書:「キャリアポルノは人生の無駄だ」/谷本真由美 著)

最近書店を覗くと、入口近くには多様な自己啓発本が平積みで大量に並べられている。そのタイトルも刺激的な文字が躍る。「秒速で1億円稼ぐ条件」、「クビでも年収1億円」いやいや「1か月で3億円稼ぐ ジョイント思考」。「スタンフォードの自分を変える教室」「ハーバードの人生を変える授業」。「7つの習慣」………。億という金額が目立ち、年・月・秒まで出てくる。アメリカの著名な大学を冠にしたタイトルが出てくる。こんなに手っ取り早く大金を稼ぐには相当の努力と能力が求められるはずであり、著名大学の冠をつけた本を読めば、すぐさま自分が変わるとは思えない。
  そんな疑問に答えてくれる本が出た。谷本真由美「キャリアポルノは人生の無駄だ」(¥798 朝日新聞出版2013.6.30)がそれである。タイトルがこれまた自己啓発本のように刺激的である。キャリアポルノは彼女の造語であり、「読んだり眺めたりして楽しんで欲望を満足させる」という意味で「ポルノ」の言葉を使用し、そこに「キャリア」を付けることで、「求めるキャリアを想像して欲望を満たす娯楽」ということを表現している。
  自己啓発本が売れているのは、アメリカと日本が中心で、ヨーロッパではほとんど売れていない。アメリカンドリームの実現はアメリカ国民の希望であり、スーパーヒーローを求める国である。ヨーロッパの人々は、現実は変えられないという諦観があるようだ。映画を見ていても、ハッピーエンドの多いハリウッド映画に対し、何かモヤモヤ感のエンディングが多いヨーロッパ映画。
  日本は頑張れば何とかなるという価値観があるので、アメリカ的であろう。半沢直樹のようなスーパーヒーローが求められている。競争社会の中で「経済的な不安と恐怖」が常にあり、「よりよい生活をしたいが自分では努力をしたくないという『怠け者』や現実を直視したくない『意気地なし』が多い」らしい。
  キャリアポルノの問題点は、@効果が実証されていない、A誇大広告で倫理的に疑問、B自己啓発はセラピーの一部として効果があるが、自己解決には効果があるわけでない、C同じ行動とった時に失敗リスクへの対処法がない、と指摘し、「何らかの心理的効果があるが、科学的な実証はなく、時には消費者にとって害悪がある」ということになる。アメリカの自己啓発書の著名な著者は、効果があると勧めている成功メソッドで成功していない事例を紹介している。いい方を変えれば、成功しているのは成功メソッドの活用でなく、成功メソッドに関わる本等や講演料の売り上げで、成功しているのである。
  では人生を無駄にしない解決策はあるのか?ここでは、自分は自分、成功者は成功者という自己認識を行い、不安や恐怖を可視化したり、吐き出したり(家族や仲間や専門家に相談したり)することが必要とのこと。仕事だけが人生でなく、それ以外でもっと楽しもうと結んでいる。
  私自身は自己啓発本を手にすることはあるが、文字数が少ないから、その場でアウトラインを読み切れる。参考にできることがあれば参考にするが、それだけである。そこには憧れや羨ましさはない。サラ金の宣伝で「ご利用は計画的に」というキャッチコピーがあったが、計画的に利用できる人はサラ金を借りない。同様に「○○で成功する」人はそのような自己啓発本は買わない。
  ああ、残りの人生を気楽にいきましょう。

 
(2013.9.18/井澤知旦)